『デーミアン』


 ヘルマン・ヘッセ全集(臨川書店)が新訳で刊行されているので、少しずつ読んでいる。
 『デーミアン』(小澤幸夫訳)を読み終えた。高校の頃の愛読書だった。たぶん、訳もとても読みやすいのだが、もうすっかり忘れていた細部までが、ものすごく親しくなつかしい手触りで、読んでいる間じゅう、幸福な気持ちだった。いろんなことを思い出した。『デーミアン』を読んでいるのか、自分自身を読んでいるのかわからなくなりそうなほど。むかし、次のようなくだりに泣いたのだ。

   「ただ一つのことが私にはできなかった。他の連中のように、自分の中にぼんやりと隠れている目標を外へと引き出し、目の前に描き出すことだった。他の者たちは、自分が教授なり、裁判官なり、医者なり、芸術家なりになろうと思い、それにはどれくらい時間がかかるか、どのような利益をもたらすかということを正確に知っていた。私にはそれができなかった。ひょっとしたら私もいつかそうなれるかもしれなかったが、どうしてそれを知ることができるだろう。(略)
 私は、自分の中からひとりでに出てこようとしたものだけを生きてみようと望んだだけだった。なぜそれがこんなにも困難だったのだろうか。」

 もしかしたら今日はバレンタインデーだろうか。忘れていた。うちには愛しい男がふたりいるが、どうしよう。今月は、私が何冊か本を買ったせいで、財布はもうどこへでも飛んでいけそうなほど軽い。肉と魚はあきらめるとしても、にんじんと白菜と豆腐を買わなければいけないし、チョコレートを買える余裕は全然ないと思う。
 ココア入りホットケーキでゆるしてもらおうか。2日ほど前にもつくったけど。