ない愛


   ない愛     宋左近

わたしが炎のなかにつきおとす
母が炎えることによっておそらく
ないわたしの愛が炎えはじめたのだ
あるわたし自身をむごたらしく炎やすために


 18歳のとき母が死んだ。それから数年してこの詩を読んだときの衝撃を忘れない。この詩があってくれたことで、私は私の内面の体験に向きなおった。母の死と父の無惨と家族の崩壊と私自身の犯罪者のような意識と。なんのおそろしさだったのか、心が焼かれているようだったあの半年間の。 そしてそれからの。

 詩人の宋左近氏が亡くなったと知人のメールで知った。87歳。詩人が去っても、歳月がすぎても、「ない愛」だけは炎えつづけるだろう。