鳥海昭子の短歌

短歌往来5月号。
もらった。さとうさんありがとう。
鳥海昭子(1929-2005)の特集が読めてよかったです。
読みながら山崎方代を思い出したけど、交流があったんですね。

 盗癖の子の手をとれば小さくてあつたかいのでございます (「花いちもんめ」)
 うしろしか見せなくなつた少年と海に降る雨みておりぬ
 つまり許していくことであり 黙々といんげんのすじとっている
 痛いところ痒いところも踏んでふまれるふるさとは祭りのさなか
 号泣する子の宇宙あり毛根のひとつひとつのくやしさである (「どっぴん語り」)
 あけがたの落としものみたいな月があり親のない子が危篤なのです (「ででっぽの花かたんこの花」)
 指をくわえて遠いまなざしの膝の子が地球のおもさでございます
 戦死公報大切に持つ母たちがいなくなるあとの世がおそろしい (「ほんじつ吉日」)

養護施設で働いていたそうで、詠まれているのは施設の子どもたちの姿らしいが。
記憶の古層にやわらかくふみこまれた感じ。
子どもの盗癖に、親は狂うほど泣いた。こととか。
子どものころに感じていた、母やまわりの大人たちのまなざしの、もっとも良質な部分にふれたような慕わしさ。
この母たちがいなくなるあとの世が、ほんとおそろしい。