11月の旅つづき 南国土佐をあとにして 

 一つ脱いで後(うしろ)に負ひぬ衣がへ  芭蕉

11月はじめに鹿児島に行ったときもそうでしたけど、四国も。あったかいから、着こんでいったの、一枚二枚と脱いで、リュックに詰めこむんですけど、後ろに負うと重たくなる荷物。息子はというと、ブレザーの下は半袖シャツで、さすがというか何というか。でも11月も終わりよ。
高知。朝、私が寝てる間に宿を出ていった息子を、駅に向かう途中のはりまや橋あたりで、電車やバスを撮っているのを見つけて捕獲。駅で、鯖寿司買って、奈半利行きに乗る。奈半利からバスで室戸岬足摺岬には、ジョン万次郎の銅像があり、桂浜には坂本龍馬銅像があり、室戸岬には中岡慎太郎銅像がある。なんか、四天王みたいな、いや三天王か、土佐の守護神みたいな感じ?

 

いい天気で。海の青さと、波音と。海見ながら、ひなたぼこ。

バスで、あれはどこまで行ったのだろう。途中で、廃校を水族館にしたところがあって、むろと廃校水族館。ニュースで見たことあって、ああここが、と思ったけれど、旅は先を急ぐらしく、通過。東洋町の道の駅で降りる。海辺の砂浜の。夏はにぎやかじゃないだろうか。いまは静か。

それから歩いて、甲浦(かんのうら)駅へ。途中で、看板があって、「慎太郎」と「海援隊」が、グループホームの名前だった。
なんにもないだだっぴろい空き地にぽつんと駅。ここから、めずらしいデュアル・モード・ビークルの車両が、徳島の阿佐海南駅まで走るのらしく(土日祝日は阿佐海南駅から室戸岬まで)、息子、予約していた。

バスになったり鉄道になったりする。切り替えて走るんだけど、切り替えるときに、車内の画面にその様子が映って、BGMが阿波踊りで、なんか笑いそうになる。
海辺を走るときの眺めがいい。

高知から徳島への海沿い、また来たいな。生まれたのが四国の反対側なので、このあたりまで来たのははじめてなのだった。

海南駅から徳島へ。息子は徳島から鈍行でどっか列車の撮影に行き、私は駅のスターバックスで充電の係。
戻ってきた息子と、徳島から特急で高松に着いたらもう暗い。宿について、ここでようやく、旅行支援のクーポン6000円もらう。でも、翌朝は始発で出なきゃいけないので、夜ごはんで使い切るしかない。近くの店で、税込み6012円でごはん食べた。息子、つぶ貝の刺身とイカの塩辛、生まれてはじめて食べたと思う。小さいとき貝をこわがって食べないから、無理に食べさせなかったのだ。気に入ったらしい。良き。それからあの子は夜遅くまで、琴電撮っていた、らしい。

 

兄から電話。翌朝、私たちは松山まで行って、私と息子はそこで別れて、私は迎えに来てくれる兄と一緒に、もう一日宇和島に帰ろうかと思っていたんだけど、兄が言うには「車があかんみたいや、迎えに行けん」。

車、あのボロい小さい車を、息子に迎えに行くのに無理して走らせたからではないかというと、いや、松山からの帰りはもっとスピード出したから、そのせいかもしれんけど、ぼくのせいよ、気にするな、と言う。まあ、そう言うわね。
でもそんなふうに、私たち、気づかないところで、誰かに大きな支払いをさせながら、生きていたりするもんよ、おかげできみは温泉の時間に間に合った、と。車一台オシャカにして、という話を息子とする。あれから兄の車どうなったか、まだ聞いてない。

翌朝、始発でまた松山に向かわなければならないのは、息子が宿にタブレット忘れたからで、それがないと大学のレポート出せない。毎回何かしらあるもんだ。夏には九州の列車でスマホと学生証失くしてたし。幸い見つかったけど。

列車のなかから、讃岐富士の朝焼け見る。それから西条あたりの田園風景。

 

特急さすがに速くて、四国をぐるぐるまわってるのが、なんかもう遊園地にいるみたいで、もっともっと、レコードみたいにぐるぐるまわっていたい。
それで私、もしかしたら、このあとの人生、遊園地で遊ぶみたいに楽しく生きていけるのかしらと思ったんだけれど。

忘れ物受け取って、荷物を駅のロッカーに入れて、松山城登ろうって話になった。のぼる前に電車で市内ひとまわりして。松山よく来るのに、お城に登るのは、私、小学校の修学旅行以来の気がする。ロープウェーでのぼると、遠足だか修学旅行だかの小学生たちいて、どこかに、私の遠い友だちもまぎれていそうな気がふとする。

松山城は、城のつくりにトラップあって、天守閣までたどりつくのが難しいのらしい、私たちも迷ったけれど、「ここが最大のトラップだよね」と息子が言ったのは、入場料を払うの門。200円くらいかと思ったら520円だって。
どうするって聞いたら、「帰ろう」っていうから、天守閣登らないことになった。見上げただけ。かわりに、いよかんソフト食べた。旅の終わりはお金がない。
駅でスパゲティ食べて、別れた。息子はそのまま岡山まで行って、倉敷に一泊してから帰る。見たいか乗りたいか撮りたいかの列車があるらしい。私はフェリーで呉まで、呉から電車で帰る。

四国の旅、なんかずっと遊園地にいるみたいで、このあとの人生、遊園地で遊ぶみたいに楽しいかしらと思ったんだけれど、南国土佐で、一つ脱いで二つ脱いでしてたのを、ゆうがた瀬戸内海をわたり、呉について、一つ着て二つ着てしてるうちに、楽しい気分はすーっとひいていって、私、遊園地にいるわけじゃないみたい、となった。

日常に、着地。

ありがとう。楽しい旅でした。