今年の5冊

今年の5冊。
読んだ本のなかから心に残ったものをあげてみます。



『狙われたキツネ』ヘルタ・ミュラー著 山本浩司
チャウシェスク独裁政権崩壊前夜のルーマニアを舞台にした小説。チャウシェスク夫妻が殺されたときの映像を、思い出したりした。悪の凡庸さ、その凡庸なもののために、友情は引き裂かれるし、仲間は殺される。不幸と絶望のリアリティーが圧倒的。著者は昨年ノーベル文学賞受賞。(三修社


『カムイの言霊』チカップ美恵子
アイヌのカムイ(神さま)は、人の役に立ってはじめて「カムイ」を全うする存在である、というありかたに心打たれた。「アイヌ・ネノ・アン・アイヌ(人間らしい人間)」の姿が、アイヌの言葉やカムイの物語から染みとおってくるような感じだった。アイヌ刺繍作家の著者の遺稿。(現代書館


『出口のない夢』クラウス・ブリンクボイマー著 渡辺一男訳
アフリカ難民の残酷な現実。戦争や独裁政治、税金の浪費や汚職のために、機能不全に陥った国々。貧困、暴力、飢餓。それがどのようなものかを、具体的に追いかけてゆくと、まだ生きていることは、それだけで「最大の勝利」だという言葉が、納得される。それほどの悲惨。(新曜社


『新しい人生』オルハン・パムク著 安達智英子訳
一人の青年が、一冊の本を読んで、新しい人生を求めて旅に出て、人生を台無しにしてしまう話。トルコの近代化が抱える危機も背景にあって、それは欧米の植民地主義の暴力だけれど、「自分になれないでいるんだ」という主人公の悲痛な声と、青春の自分探しの旅の苦さ、みじめさ、取り返しつかなさの手触りが痛切だ。著者はイスタンブール在住のノーベル賞作家。(藤原書店)


『ルポ 在日外国人』高賛侑
現在、日本には222万人(おぼえやすい)の在日外国人がいる。中国が最も多く、韓国・朝鮮、ブラジル、フィリピンとつづく。民族差別や長時間労働、低賃金、不安定な生活など、在日外国人が日常的に体験している諸問題を包括的にとりあげる。日本はすでに多民族社会なのだが、民族差別を取り締まる法律もなければ、子どもの民族教育の権利も保障していない。日本が在日外国人に負わせている問題がはっきりと見えてくる。多文化共生の理念にもとづくグランドデザインが必要だ。(集英社新書