10年

ちょうど10年たったことになる。東京を引き上げて、ここで暮すようになってから。9・11の惨劇は、引っ越し荷物も片付かないなかで、テレビでリアルタイムで見たのだった。

10年たったのである。それをつくづく思ったのが、電化製品の買い替えを迫られていることだ。
冷蔵庫は10年以上前からのだから、電気代かかるし、バーゲンを狙って買い換えた。
その支払いが終わらぬうちに、これも10年以上前からの掃除機がある日突然動かなくなった。パパが安くて性能のいいのを見つけてきたが、性能がよすぎて、私は使えん。もとよりきらいなんである。慣れるのにしばらくかかりそう。ふだんは棕櫚のほうきを愛用してる。
洗濯機は。10年前に中古で7千円だった。あんまり調子よくないが、でもまだ動く。動いてもらう。

それからプリンター。業務用の大きなプリンターをもらったのがあって、パアラランのニュースレターの印刷など、たいへん重宝だったのが、これも10年過ぎてるんだろう、最近はもうトラブルつづき。叩きながら働かせていたが、買い換えたほうがいいですよ、と文具屋に言われてカタログもらってくるが、……高い。
考える考える考える。修理費の見積もり出してもらって、トナー代とか、ランニングコストとか、あれこれあれこれ考えて、廃棄を決意。
とすると、新しいのを買わねばならんが、文具屋がくれたカタログ高すぎるので、電気店に探しに行くと、手頃なのがあった。これにしよう。
さらに考える考える考える。紙代。インク代。もうひたすらコストの計算。
(本買ってくださったり、米買ってくださったり、寄付くださったみなさま、ありがとう。プリンターの経費にあてます。)

さて新しいプリンター、近所の量販店で買ったんだが、その後、同じ量販店の別の店に寄ったパパが、同じものを1万円高く売っていた、という。聞くと、そっちが本来の値段らしい。ということは、つまり1万円安く買えたのだ。きっと店の改装の前だったからでしょう、と言う。そういえば翌日から改装がはじまっていた。にわかにうれしい。

元気出そう。天は、パアラランの味方をしている。
すがすがしくニュースレターの印刷にとりかかる。



10年たったのである。10年前にはいなかった子どもが、元気に学校から帰ってくる。「パパが言ったことは嘘だったよ。今年の夏は、だれもプールで死ななかったよ」って言う。ああ、プールで死ぬ子もいるから気をつけるようにって言ったからだな。
プールは3メートル泳げるらしい。たぶん、3メートルは沈まずにいられたらしいのだ。
子ども、昨日、宿題をはじめてから2時間たっても半分も終わってない。横でずっとにらんでいないとやらないのだ。すぐにもう、ぽうっと頭がどっかに行ってしまう。
私も、何度も何度も声かけするのに疲れてしまって、
「もう、あと10分で終わらなかったら、絶交する」
って言ったら、子ども、一瞬涙ぐんで、それからプリントに向かったが、なんときっかり10分後に、「終わったよ」ってやってきた。
10分ですむんじゃん。じゃあ、あの2時間はなんだったんだよう。
「絶交、って言われて、ドキンとして、それでようやくスイッチが入ったんだよ」って言う。もう、10年目の電化製品みたいだ、と思った。

はっきり言って、自分を見ているみたいです。でも電化製品と違って、あなたも私も、買い換えはきかん。なんとかがんばって動きつづけようよ。

いまも、宿題しているはずなんですが、階下から聞こえてくる独り言は、たぶん宿題とは関係がない。
……声かけしてこよう。