朝鮮高級学校への「高校無償化」即時適用を求める詩人の要望書
「全ての子どもの学習権は、どんなことがあっても、社会の大人全員が絶対的に保障しなくてはならない」―私たちはこの一点に思いを共有する日本人、在日コリアンの詩人有志です。
私たちは、高校無償化制度の対象から朝鮮高級学校生徒が除外されようとしている由々しき事態に対し、詩人の立場から反対の意志を表するため、昨年8月に79名の有志の作品を収録した『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』を発刊しました。同書は全国的に大きな反響を呼び、各地で詩の朗読会も開催されました。それはひとえに、詩に込められた思いが、各界各層の日本人、在日コリアンの共感を呼んだからにほかなりません。
世論が広範に高揚する中、日本政府は昨年、方針を二転三転させた末、朝鮮学校に対する制度を適用する方針を決定しました。にもかかわらず、11月の韓国・延坪島砲撃事件を口実に、またもや朝鮮高級学校への無償化適用の手続きを停止してしまいました。人心を弄ぶような政府の態度に対し、私たちは強い憤りと悲しみをおぼえます。私たちは問いたい。あの砲撃事件に対し、朝鮮学校の生徒と保護者はいかなる責任があるのですか。子どもの学習権に対し、何ら関係のない事象を理由に制限を加えようとするのは、明白な人権侵害ではないのですか。
昨年、日本と朝鮮半島は「韓国併合100周年」を迎えました。忘れてはならないのは、日本が、植民地時代から今日に至るまで、実に在日五世代に渡って民族差別を継続してきたことです。とりわけ四・二四阪神教育闘争をはじめとする朝鮮学校弾圧の歴史で流された涙と血は、まだ決して乾いてはいません。
それら歴史の闇の慟哭に対し、日本政府は一度たりとも耳を傾けて来ませんでした。さらに今、決定的な差別の歴史を刻み込もうとしています。今回の無償化からの除外は、日本国内ばかりか、国連人権委員会をはじめとする国際機関からも、国家による差別であると厳しく断じられ、改善を勧告されているではありませんか。
朝鮮学校の児童・生徒は、自分の民族的アイデンティティを保持しながら、日本社会の発展と日朝友好と親善促進、ひいては世界の平和実現のために寄与する人間として成長したい、という希望を抱いています。彼らの学習権を踏みにじる行為は、国内外の法制度上からも人道的見地からも決して容認されません。『アンソロジー』に収録されていた「私たちにあるものは/ないはずの差別である/私たちにないものは/あるはずの権利である」(京都朝鮮中高級学校高級部3年 安珉葉)という悲しみの声に、大人は国籍や民族の差異を超えて真摯に耳を傾けるべきです。
もし政府が昨年度の就学支援金を本年3月までに支給しなければ、朝鮮高級学校の本年卒業生は同支援金を受給することができない、という取り返しの付かない禍根を、子どもの心にも日本社会の歴史にも残すことになります。
私たちは政府、文部科学省、および関係各位に強く訴えます。朝鮮高級学校に対する無償化適用の手続きを即時再開し、直ちに支援金の支給を実施していただきたい。負の過去を顧みつつ、日本社会は新たな時代への第一歩を踏み出すべきです。
2011年2月13日 『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』事務局