連鎖

私がいなかった金曜日、子どもは、今度は2年生のS君に泣かされて帰ってきた。でもその2年生は、誰かをいじめるような子ではないし、へんだなあと思ってパパは、S君の家に話をしに行った。

それでお婆さんと話していてわかったことは、S君はもう何年も、近所の6年生にいじめられている、ということだった。カードをとりあげられたり、ボタンをひきちぎられたり、あれもってこいこれもってこいと言われたり、家に遊びにきて家捜しまでするので、大事なものは2階に隠したり、までしていたそうだ。
それは言わなきゃ、というと、もうじき卒業だし、波風たてたくないし、とお婆さんは言ったらしいのだが、かまわず、6年生のところに行ってお母さんに話をした。お母さんはまったく何にも知らなかったのだが、すぐにS君のところにあやまりに行ってくれた。

ああ、6年生の彼もせつないなあ、彼は兄貴にいじめられている。うちの子のことは大事にしてくれるのは、アスペルガー同士、どっか波長があうんだろうな。

パパは、次に3年生のK君のところに行って、でも彼は彼で、姉からもそこらの年上の子らからもいじめられて、なかなかつらい立場でもあるので、彼の母親やお婆さんには、Kくんが「死んでほしい」とうちの子に言った、とは言わず、このあたり、子どもたちの言葉遣いもよくないし、石まで飛んで怪我する子も出ているし、そういったことはすべて学校に報告するから、というような一般的なことだけ言って帰った。

それから、「こいつすぐ泣くんだ」と言ってすぐ泣かせる近所の1年生のS君にも、お母さんには黙っといてやるから、と安心させといて、二度とうちの子をいじめるな、今度やったら先生にも親にも言うぞ、と言っておいた。

2年生のS君に、いい人間にならなきゃ損だ、人をいじめていたら、人生が半分ぐらいに減ってしまうぞ、子どもの頃に人をいじめていて、大きくなって幸せになった人間を知らない、と言い聞かせていたら、S君のおじいさんもはげしく同意してくれて、それから年寄りたちとなごやかに話して帰ってきた。

月曜日には、帰りに3年生のK君が、「死んでほしい」って言ったのは、本気じゃないんだ、冗談なんだ、って、子どもにあやまってくれたらしい。
私、学校に言いつけたし、先生になんか言われたかもな。

女の子が石をぶつけられて怪我したことは、あたりの3つの町内会の会長に話をして、犯人わからないが、公にはしないから、良心があるならこっそり謝りに行け、というふうに話を流してもらうことにする。

というわけで、私がいない間に、なんだかずいぶんすっきりしていた。
たぶん、大人が悪い、というか、大人が臆病なのが悪いよな。



夜、「ママ、うざいって何」と子どもが聞く。
うっとうしいとか、うざったいとか、あっちへ行けとか、おまえなんかきらいだ、とか、そういうことだけど、誰が言ったの。
「Sくんが言った」
じゃあ、今度言われたら、その言葉は、ぼくのママが一番きらいな言葉だって言いなさい。
それでも「うざい」って言われたら、きみはまずおしゃべりをやめて、だまって、そこから離れて、ひとりで遊べ。わかった?

たしかに、この子どものおしゃべりは、同年齢の子にはわけわからなくて、うっとうしいと思うけど、きみを「うざい」というやつと、わざわざつきあわなくていい。

で、Sくん、「うざい」同級生の家に、明日は遊びにくるそうだ。それでお泊まりしたいそうだ。でもそれは「うざい」から、夜はお家で寝てください。