朝のぱにっく

朝7時。登校班の集合場所の公園まで坂道を子どもと一緒に降りる。
そこで子ども、忘れ物をしたのに気づく。気づいて泣く。
「ママ、あとから車でもってきて」って言うから、行かないって言った。そんなに都合よく自分の失敗の後始末をしてもらえると思うな。
泣いてるひまに取りに帰りなさい。
「えーん。間に合わないよ」間に合うから。間に合わなくても。
子ども坂道を走ってのぼる。しょうがないので私もそのあとを追うが、ああっ、しんどいっ。

角の家の犬が吠える。このバカ犬は何年たっても住人に吠えるのをやめない。子どもに向かって犬が吠えないように、毎朝おばさんが庭先に出てくれているのだが、子どもが引き返してくるとは予想外。おばさんいないので、犬は吠える。子どもは泣く。泣いて立ちすくむ。

立ちすくむ子を追い立てて、さらに家まで走らせる。わんわん泣きながら走る。

「落ち着いて、落ち着いて。いざとなったらパパが車で送ってってあげるから」
大泣きしてもどってきた子にパパが言っている。
送ってもらうには及ばない。走れば間に合います。

クリーン作戦とかで、ゴミ拾い用の軍手とビニールをもって、走る。
通学班はもう出発したあとで、公園にいない。子ども、また泣く。
追いかけなさい。追いつけるから。
子どもが走って角を曲がるところまで見届けて、さあ、帰ろうと息を整えていたら、やがて、後のほうから、すすり泣く声。
子ども引き返してきている。
「遠くで、おいつけない」

おいつけなくても、おいかけて、バスに乗るしかないでしょう。みんなが乗るバスに乗れなくても、次のバスが来るから、それに乗る。

子ども、大泣き。もう、完全にぱーにっく。
「パパに車で送ってってもらう」
もらいませんっ。間に合うから走りなさい。

しょうがないので、私も一緒に走る。角を曲がっても、次の角を曲がっても、みんないない。
「無理だよ。パパの車で行く」
車で行きませんっ。バスで行く。バスで行けなかったら歩け。一時間も歩いたら着くから。ほんっとに、パパが甘やかすから、ひとりではバスにも乗れない子になってしまった。それでは将来おまえが困る。今度、車で行くなんて言ったら、ママはそんなの反対だから、パパも車も捨てるから。おまえ、家に帰ったら、パパも車もないからね。
「いやあ、それはいやあ。」子ども泣く泣く。
だったら、自分で歩く、自分で走る、自分でバスに乗る。

子ども、泣きながら走る。しょうがない。バス停まで私も走るのだ。

大通りに出ると、登校班は向こう側の停留所で、バスを待っている。
ほら、間にあった。

信号が変わって、横断歩道をわたる途中で、まだ、ついてきてって、手招きする。はやく渡れ、ばか。

子ども、横断歩道渡る。ばいばい。おかーさんは帰るっ。



夕方、帰ってきた子どもと、忘れ物をした場合の作戦を、あらためて考える。ここの6年の班長はよく通学班に遅れる、でもバスには一緒に乗れることが多い。遅れても泣かないでしょ、大丈夫なんだよ。(遅刻魔の班長さん役に立つ。さすが班長さん、と思ってしまった。)
もし、バスに遅れても、次のバスがやってくる。それに遅れても、次のがやってくる。どんなに遅れても、いつかはバスはやってくるし、学校は下校の時間までにたどりつけばいいんです。
「えー、それは困るよ」と子ども泣きそうになる。
冗談だよ。だいじょうぶ、授業がはじまる前に行けるから。

子ども、いい経験になったよ。たぶん。でも私、坂道を走ってのぼったり降りたり、いやだ、もう。