朝、子どもを登校班の集合場所の公園まで送っていく。
この子ども、家から公園までの200メートルを、心細くてひとりで歩けない。2年生になったらひとりで行く、と以前は言っていたが、2年生が近づいてくると、それも言わなくなった。あー、だって、ぼく、犬が、こわいし、だって、ぼく、……と、ぐずぐず。

で、公園に行くと、町内会長がいて、昨日、M兄妹の1年生の妹が、学校の帰りに後から石をぶつけられて怪我をしたらしい、と言う。「子どもら、雪玉を投げながら帰ることはあるけど、石とはなあ」と町内会長。そこへM兄妹がやってくる。妹が帽子をとると、頭の後ろに大きな絆創膏がぺったん。1年生が帰る時間じゃなくて3年生の兄が帰るときに一緒に帰っていたんだが、後ろからぶつけられたから、誰にぶつけられたか、わからない。

ぶっそうな話はまだあって、3年生の女の子が、近所のOさんちに泥棒が入ったのはほんとうか、と町内会長に聞く。このあたり、坂だし、坂がしんどいから泥棒も来ないよと言っていたのに、来たんだな。裏口のサッシを割られて、貯金箱ひとつ盗まれた。「いくらはいっとったん」と女の子。いくらかわからないが、1円玉や10円玉じゃなくて500円玉だったらしいから、ちょっとはたくさんかも。サッシを直すお金がかかってたいへんかも。

石ぶつけるってとんでもないなあ。誰だろうなあ、とパパに言うと、このあたりで一番よく石を投げるのは、Mの兄だぞ、と言う。今度見回りパトロールのときに言わなきゃと思ってたとこだ。あいつが一番悪い。石投げる文化をつくったのはMの兄だ。あいつが石を投げるから、石を投げ返して挨拶してやろうという奴が出てくるわけだ、それがコントロールをあやまって妹にぶつかったんだろ。

あらら。そうでしたか。
M兄はM兄で、年齢の割に体が大きくて、なかなかせつないところもある奴なんだが。授業時間をずっと教室にいるというのは無理なので、半分くらいは別の部屋で過ごしているから、学校に行くと、廊下なんかでよく会う。就学相談のときに担当者が、M兄の面倒も見た人だったから学校の事情もよく知ってくれていて、話が早くてたすかったんだけど。

女の子だし、顔じゃなくてよかったよ。眉間に傷なんか入って、あのきつい顔で、兄貴と喧嘩したときに言うみたいに「カス」とか言い出したら、怖くて誰も近寄れん。
と言う。……たしかに、そうかも。

Oさんはなあ、きっとパチンコに行ってたんだ。それで、パチンコ屋であれこれ喋ったんじゃないか。ひとり暮らしだとか、家はどこにあるとか。それでパチンコ屋にOさんがおれば、家は留守、さあ行こう、ってことになるじゃないか。さびしいからって、パチンコ屋で客とお喋りしちゃいけんよ。喋るんなら、店員か店長と喋るのよ。

……という推測。犯人わかってないのだ。

ひとり暮らしのお年寄りと言えば、去年夫を亡くしてひとり暮らしになったお婆さんがいて、たまにスーパーで会ったりすると、車で乗せて帰ってあげる。お婆さん、近所の人たちの、誰彼の車に乗せてもらっては、日々の買い物をしている。歩くと、片道20分、坂道のぼっておりてなので相当きついのだ。
このお婆さんに限らず、ここの団地の、車に乗れないお婆さんたち、スーパーだとか、銀行のほうだとかに出かけると、帰りにバスを待ったりタクシー拾ったりする前に、あたりをみまわして近所の人を探す習性があるらしく(わたしもそのうち、そういうお婆さんたちの仲間入りをするかもしれないが)、こちらから見かけて声をかけることもあるし、向こうから声をかけてくることもある。
(はやく団地にバスを通してほしいんですが)

で、そのひとり暮らしのお婆さんを送っていったら、お婆さんお喋りがとまらない。お爺さんの墓をなんとか安くローンで手に入れるまでの話をえんえんと話すのを、家の前に車をとめてしばらく聞いていた。
「お爺さん死んだら年金が入らんでしょう。お金はないし、もう、あわれなもんよ。犬がいるから助かる。そうでなかったら、とてもとてもさびしくてやれない。こないだ犬の散歩してたら、りくしくんが走ってやってきて、これは何という犬、ってきいてくれて。まああの子はいろんなことをよく知ってて、感心ねえ。ぼくも犬飼いたいんだって言ってましたよ」

あらら、犬がこわくて、ひとりで公園まで行けないって泣いてる子が。

まあ、あの犬は大きいし吠えるからね。
このお婆さんとこのふくちゃんは小さくてかわいいしね。