あたたかいひとのなさけも

朝は雪が積もっていた。
ぼくの花嫁をつくらなくっちゃ、と子どもが言う。

年末に積もった雪でつくった雪だるまの花嫁さんは、日に日に溶けてゆきながら、けっこうがんばったけど、7日目ぐらいにはさすがに影もかたちもなくなっていたのだった。かわいい花嫁さんだったけど。

でもさ、花嫁さんつくるほど、雪は積もってない。

午後になったら溶けはじめた。ぽたんぽたん、雪の溶けて落ちる音を聞きながら、私はこたつで昼寝した。

♪あたたかいひとのなさけも
むねをうつあついなみだも
しらないでそだったぼくはみなしごさ

が頭のなかを流れてた。
タイガーマスクが出没している、というニュースのせいですね。

小学校4年生のとき、古い木造校舎の廊下を、マナブという名前の同級生が、この曲をリコーダーで吹きながら、歩いていった。
やんちゃな男の子たちの一群がいて、上級生に集団暴行したり、煙草吸ったり、とんでもなかったけど、マナブくん、♪あたたかいひとのなさけーもー
を吹きながら廊下を歩いていった。
音符も読めない子が、音楽の教科書にのってる曲はひとつも吹けない子が、どうしてタイガーマスクだけは、こんなにきれいに吹けるんだろうと、思った。あの乱暴者はどうして、みなしごのかなしみを知るのかなあ、と思った。

学区内に被差別部落もあったり、貧困や暴力や家庭崩壊や、そういうものにさらされている同級生たちおさななじみたちもいるんだと、気づきはじめるよりすこし前に見た景色。