11月のデート♪

県立美術館のヴェネツィア展に行った。翼あるライオンの絵のぬりえをもっていったら、小学生は無料、だったのだ。

子ども、熱心に見ていたのは、地図と年表だった。ペストで都市の人口が激減したことが、とても気になったらしかった。あとはガレー船の模型とか、街の建物の模型とか。いちばん熱心に見ていたのは、床に貼られた千分の1の航空地図。しかもそのなかの電車の引き込み線、だった。頼まれもしないのに、見知らぬ人に、貨物の輸送経路など、説明していた。
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この美術館に来たら、ティールームでグレープの炭酸ジュースを飲みたいらしく、ついでに私にもコーヒーをおごってくれる。

この美術館に来たら、隣接する縮景園にも行かないと気がすまないらしく、庭園散策。子どもは探検の気分。紅葉とつわぶきの黄色い花がきれいだった。



須賀敦子の『ヴェネツィアの宿』という本を読み返したくなった。
十数年前に、はじめて読んだときの、それから須賀さんの本が出る度にどきどきして読んだ気持ちを、思い出したりする。
本の最初のほうの話から。

「昼間の疲れに押し倒されるようにして、すこしとろとろとしたようだった。ふいにベッドからほうりだされるような、からだが、無数の小さな手にささえられて宙に浮いたような感覚にゆすぶられて目がさめた。鐘。近くの教会の鐘が、夜中のヴェネツィアにむかってなにかを声高に告げている。時計を見ると十二時だった。とはいっても、それは、鐘楼の時計が、ただ、昨日から今日への境目としての時間を告げる、というふうではなくて、二百年まえのこの夜、輝かしい彼らの音楽史の一ページとして、はじめて自分たちの歌劇場をもつことになったヴェネツィア市民の狂喜の時間をここでもういちどかみしめているような、まるでうつつをぬかしたような鳴りかただった。そして、その鐘の音を、冬の夜、北国の森を駆けぬけるあらしのような拍手が追いかけた。建物の内側の拍手と外側の拍手が重なりあって、家々の壁に、塔に、またそれらのかげに隠れた幾百の運河に、しずかな谺をよびおこすのを、私はもうひとつの音楽会のように、白いシーツのなかでじっと目をとじて聴いていた。」(須賀敦子ヴェネツィアの宿』)