ふつうのおかあさん

学校から帰ってきた子どもが、おやつが食べたいというので、ちょうどりんごあったので剥いてやっていたら、
「うさぎにして」って言う。
めんどうだなあ。いやだよ、って言ったら、
「ふつうのおかあさんなら、できるはずだよ」って言う。
ふむ。
でも無理だよ。だって、残念だけど、ここにはふつうのおかあさんはいないもん。
「え?」
とっても残念なんだけど、ここにいるのは、きみのおかあさんだけで、ふつうのおかあさんはいないんだ。
「え?」
わかんないかなあ。きみにはふつうのおかあさんはいないの。かわいそうだけど、きみにはきみのおかあさんがいるだけ。

「ママ、うさぎできないの?」
うさぎ、ほしい?
「うん」
どうしても、うさぎ?
「うん」

明治のころに、うさぎを飼うのが流行ったことがあったらしいです。(と、子どもが何かの本で読んで教えてくれた。)
むかし、昭和のころに、きみのひいおじいさんはうさぎを飼っていて、でも戦争のときに、おなかがすいたので、殺して食べちゃった。

ふつうのおかあさんはいないけど、りんごをうさぎにするのはできる。
りんごをうさぎにした。
うさぎ食べた。

ふつうのおかあさんなんて、どこにもいないんだよ。
りんごをうさぎにできるおかあさんはいる。りんごをうさぎにできないおかあさんもいる。でも、ふつうのおかあさんなんて、いません。どこにも。

きみにはきみのおかあさんしかいない。
これでがまんしなさい。