行方不明

夏休み前の個別の懇談。
午後、学校に行ってくる。

子ども、なんとかやってるらしい。
答えがわかるわからないだけでなくて、これがこうだから、こうだと、考えをいえるし、筋道たてて説明できて、いろんなことを人に教えるのが上手ですよ、って。
隣の席の子に算数教えてあげていたそうですが、でも、自分の算数テストは、ひとけたの掛け算と引き算とまちがっていましたけどね。

今のクラスは、いままでで一番落ち着いてやっていけている感じだ。たぶん、自分が自分であることと、まわりと一緒にやっていくこととが、なんとなくうまくいっているのだろう。



私が学校に行っている間、子どもはパパとピアノのレッスンに行っていて、終わったら図書館で合流するはずだった。が。

パパから電話。子どもが行方不明になった。

レッスンのあと、先生とすこし話していた間にいなくなったらしい。
どうしてあいつは勝手にどっか行くんだ。もう知らん、わしは帰る、って言う。
教室にもトイレにもどこにもいないので、すでに車を出したらしい。

ああ。子どもがいなくなった心配よりも、パパのパニックの相手が面倒だ。心配が怒りにかわっているんだが。
子どもからすれば、ちょっとどっか行った間に、パパに捨てて帰られたって話かもしれないじゃん。
もう一度、教室に行ってみて、それでもいなかったら、こっちに来て。

ひとりで遠くにいくはずもないし、たぶんいまごろ、教室の受付あたりで涙ぐんでいると思うけれども。バス代もってないし、帰るに帰れないだろうが、もしかしたら、歩いて帰るか。

それとも神隠しかな。日暮れて見つからなかったら警察だ。

しばらくして、図書館にパパと息子があらわれた。

音楽教室の、廊下の奥に本棚があるんだが、そこの本を読みはじめて夢中になって、パパがいなくなったことにも気づいてなかったらしい。

いるけど、いなかったんだね。



いつも青い服を着て青い帽子をかぶっている女の子の話だったなあ、と唐突に思い出した。小学校3年の夏休みに、本の整理か何かで、学校に奉仕活動に行ったのだ、たしか。
それで、教室でふと、手にとったのが、そういう話で、どうしてその子はいつも同じ青い服青い帽子なのだろうと思ったら、その子のおうちには68(だったかな)枚の青い服と68個の青い帽子があった、というような話だった記憶なんだけど、それでつまり、本を読んでいる間に、教室には誰もいなくなっていた、のだった。
でも、みんながどこに行ったかわからないので、そのまま教室で、ひとりで本を読みつづけたんだけど。

遠足の帰りにはぐれたのは、4年生のときだった。
みんなと同じように歩いていたのに、気づくとはぐれていた。
あのときはひとりじゃなかったけど、みんながバスで帰っていったあとを、はぐれた数人は、田舎道をひたすら歩いて、町を目指したのだった。

たぶん、あのとき、先生たち心配したんだろうなあ。
と、いまごろ思う。



夏休み前夜。そういえば、ラジオ体操のラジオが行方不明なのだ。
夜、子ども会の関係者に電話をかけまくって、探す。

去年、係りだった、隣の団地の人のところにまだあることが判明して、じゃあいまから取りに行きますから、

と、家を出て、隣の団地に向かってしばらく歩いてから、気づいた。
その人の家を知らない。

夜の道で、知らない団地の道で、私が迷子だ。

歩いていると、見覚えのある風景があって、以前来たことがある、いま6年生の子のいるおうちだ。呼び鈴鳴らして、道案内してもらった。

行方不明のラジオ出てきた。
よかった。

で、ラジオの使い方がわからない。
これにラジオ体操のテープか何か入れて使うの?
ってパパに言ったら、心底あきれた、という顔をされた。

ラジオ体操の音楽は、ラジオから流れてくるから、ラジオ体操って言うんですね。それで周波数をあわせたら、ラジオ体操出てくるんですね。
ラジオなんて何十年さわってないし。使い方の記憶も行方不明だった。

なんか、へとへと。