鳥は卵の中から


 ヘッセの『デミアン』を読んだのは高校2年のとき。戦慄した。

 「私は、自分の中からひとりで出てこようとしたところのものを生きてみようと欲したにすぎない。なぜそれがそんなに困難だったのか。」
        『デミアン高橋健二

   本の扉に書かれたその言葉に、すがりつくような気持ちでいた。10代の終わり頃、それはとても切実な言葉だったし、切実な物語だった。次のようなところに線が引いてある。

 「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向って飛ぶ。神の名はアプラクサスという」

 『ヘルマン・ヘッセ全集』(日本へルマン・ヘッセ友の会・研究会編、訳。臨川書店) が刊行されている。全16巻。訳も新しい。第1回の配本は『車輪の下、物語集2』。もう3冊くらいは刊行されているみたいだ。
 『車輪の下』は、何度も読んでいるからと、買ったままなかなか読まずにいたが、読み始めるとこれが、抜群に読みやすい。最初の数ページからもうぞくぞくしてきて、吸い込まれるように読んでいる。