新しい人よ


 昨日の午後、保健士さんの家庭訪問。子どもと遊んだり話したり、親子教室のお誘いなど、30分ほど。「何か気がかりなことありますか」ときかれて「いえ、別に」と答え、答えたあとで不安になる。ほんとうは、気がかりなことはたくさんあってしかるべきなのではないだろうか。何にもないというのは、親としてとても怠慢だということなのではないだろうか。
 とはいえこの家に育児書はないし(一冊だけ、姑さんが買ってくれたのがあったが、カラーできれいな本だったので、子どもがよろこんで、めくっては破り、めくっては破りして、すっかり失われてしまった。もう一年も前の話だ)、他の子どもと比べることもないし、何を心配すればいいのかよくわからないのだ。

 子どもの髪を切ったら、何だかかわいそうなことになった。それでもう一度切りなおしたら、さらにかわいそうなことになった。少しもじっとしてくれないし、ついには泣きだしてしまった。お手上げ。

 そんなこんな思いながら、ざんばら頭を撫でて「ごめんなあ」と言ったら、「いーよー」と言うのである。 にこにこして、何度も「いーよー」。

 そういえば、イーヨー、という名前の男の子が出てくる話があったと、考えていて、思い出した。
 『新しい人よ眼ざめよ』(大江健三郎)。障害児の息子の話だ。装丁は司修。文中に引用されているウィリアム・ブレイクの詩が美しかった。