マクドナルド


 子連れの外出は疲れる。といって、子どもを置いてどこにも行けない。
 車のなかではチャイルドシートをいやがって泣き叫ぶし、車を降りると、家のなかではあんなに走り回る子が、すぐに抱っこをせがむ。抱っこしないとその場に座り込んでしまう。そうして11キロを抱えてけっこうな距離を歩くことになるのだ。

 子どもはマクドナルドでは、嘘のようにいい子である。家では食事のときも大人しくすわっていない、テーブルとおもちゃの間を走りながら食べている子が、ハンバーガーとポテトとマックシェイクを、とてもお行儀よくすわって、上機嫌で食べているのだ。マクドナルドの魔力、というか説得力は、なんだかすごい。

   フィリピンで、軍人と結婚している知人の家に泊まったとき、5歳の男の子がいて、一緒に遊んだ。翌日帰るとき、男の子は「ぼくも一緒に行く」とバスに乗り込んで降りようとせず、「日本へ行くのよ」と言われても「ぼくも一緒に日本に行く」と泣きじゃくって、ママとおばあちゃんをてこずらせていたが、ママが「マクドナルドへ行くよ」と言うと、たちまち泣きやんで、「ぼくも行く。じゃあ、バイバイ」と手を振ってバスを降りていったのがおかしかった。あれが、マクドナルドの魔力を感じた最初。

 それからも、男の子には何度か会った。7歳の頃は日本の醤油が大好きで、きらいな野菜も日本の醤油をかけると食べれた。10歳の頃には、箸を上手に使えるようになっていて、ママはときどき息子に海苔巻をつくってやるのだと言った。男の子はひらがなの読み書きもできるようになっていて、「にほんご」と書いて見せてくれた。本を見てひとりで勉強したらしい。
 お父さんは軍人だし、もしかしたら、戦争のときに、フィリピンで戦死した日本兵の生まれ変わりじゃないかしら、と思ってみたくなるほど、ふしぎな日本贔屓の男の子だった。しばらく会っていないけれど、もう15歳くらいになるのかな。いまも日本を好きだろうか。