「発達障害者支援法」

自閉症の子を持って」(武部隆著 新潮新書)読了。
リサイクルの本屋さんでたまたま見つけた本だが、読んで、うちの子どももお世話になっている(これからもお世話になるだろう)「発達障害者支援法」の内容と成立のいきさつを知ることができた。
 

「二〇〇四年十二月三日、第一六一回臨時国会当日に、ある法律がひっそりと成立した。
 その名前は「発達障害者支援法」。
 第一条には、同法の目的として次のような趣旨のことが明記されている。
発達障害者は、できるだけ早期の支援が特に重要であることから、障害を早期に発見し、発達支援を行うことに関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、発達障害者に対し学校教育等における支援を図る」
 また、第二条では発達障害をこう定義している。
自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」
 わが国の法体系の中で自閉症アスペルガー症候群などの「発達障害」を明確に規定した法律は、それまで存在しなかった。」(略)

 この法律は、

「自閉性障害を抱える子どもの親にとっては、大きな意味を持つ。この法律によって自閉性障害児への社会的支援がいきなり手厚くなるということではないものの、行政が支援に取り組む上での根拠法が存在すれば、それだけ予算が付きやすく、さまざまな施策の展開が可能になるからだ。」

 超党派議員連盟による議員立法である。

「行政分野を長く取材してきた筆者の経験から見て、「発達障害者支援法」は置き去りにされてきた軽度障害者の支援を進めていく上で、重要なツボを押さえている。その理由を探ろうと、法案を作成した議員連盟で事務局長を務める公明党福島豊衆院議員を訪ねてみた。福島議員はもともと医師で(略)発達障害を持つ男の子の父親でもある。(略)
 法律の内容が、発達障害児の親が抱える悩みを見事に反映している点を指摘すると、「もちろん、法案を作成する時には自分の経験を生かしましたよ」と苦笑いしながら認めていた。
 この法律は、重症度に応じて予算が配分されていく現行の福祉制度を一から変えようとはしていない。まず、国や地方自治体が発達障害者への支援にどのような責任を持つのか、根源的な部分を定めることで、軽度障害への取り組みが進む流れを作ろうとしている。要するに現実主義なのだ」

 「例えば、同法第三条は、国と地方自治体の責務として、発達障害の「早期発見」「早期支援」を明示し、医療、保健、福祉、教育、労働などの担当部局が緊密に協力する体制を整えなければならないことを定めている。早期発見ができれば、それだけ親が孤立して悩むことは少なくなる。(略)軽度障害の子どもには必ずしも人とカネをかけた手厚い支援が必要とは限らない。子どもの人生の各ステージで、トータルなアドバイスを受けられる仕組みがあれば、親の負担はずいぶん軽くなるだろう。」

「第五条には、市町村の保健部門が行う乳幼児検診、市町村の教育委員会が実施する就学児健康診断などの際、発達障害の発見に留意する責任を明記している。第七条では(略)保育施設では発達障害児をできるだけ受け入れるように促している。
 (略)さらに、支援施策の実施に当たり、障害者本人と家族の意思をできる限り尊重するとの趣旨が盛り込まれていることも目を引く。
 この法律の趣旨が国や自治体の施策に反映されていけば、追い詰められる親は確実に減っていくに違いない。」

 ながなが引用としたのは、私たちがまともにこの法律の恩恵を受けているからだ。
 ちびさんが生まれたのが、この法律ができる一年前。つまり、この法律がなければ、乳幼児検診で、療育センターでの診察を勧められることもなかったし、療育のクラスに通うこともなかっただろう。しかも無料(乳幼児医療の補助の範囲)で。軽度発達障害児の療育のクラスもこの法律ができてからできたのだし、去年、療育のクラスに通っていなければ、今年、こんなに落ち着いて幼稚園に通わせるなんて、できていないと思うわ。
 幼稚園の先生が発達障害の子を受け入れるのに、「一生懸命勉強します」なんて言ってくれたりしないと思うし、集団行動がほとんどできないちびさんが、こんなに気持ちよく幼稚園に通えたりしないと思う。

 私も弟も、今なら間違いなく発達障害と診断されたと思うし、言語障害と知的な遅れのあった弟は、途中から特殊学級に在籍することになったけれど、当時も、発達障害についての知識と理解があれば、母さんは、あんなに悩んだり苦しんだりしないですんだろうな。(教師は、弟のせいでどんなに自分が困っているか、クラスの邪魔になるか、なんてことを、母に、あんな失礼な態度で言ったりしてはいけなかったはずだ。)
 小学校の低学年頃、夕方になると、母は弟の勉強を見てやるのだが、たいてい、母のヒステリーと涙と弟の大泣き、という修羅場になるのだった。姉の私がまた、人に関心のない自閉的な子だから、弟の面倒を見ようなどということは思いもつかず、女の子なのに冷たい子だ、とそれもまた、母の悩みの種であったに違いないのだった。

 そんなに悩まなくてもよかったんだよ、と死んだ母さんに言ってやりたい。ただの発達障害、ほんの自閉性障害なんだから。