いっぽんばし

一本箸。
こないだ幼稚園で、子どもと一緒にお弁当を食べたとき、箸づかいの見事さに、息をのんだ。一本をぽろりと机に落とし、残りの一本で、なんと器用に食べること。
1年間、訓練したんだなあ。(お弁当は箸のきまりなのだ)

と感心しているわけにもいかない。
箸は二本ではさんで食べるのです。

以前、箸を使わせようとしたら、泣くわ、すねるわ、ついにハンガーストライキとなって、もともと食の細い子が、食べないなんてどうしようと、いやもう、箸なんて使わなくていいから食べてくれ、と思った。

それで、まあ気持ちだけでもと、スプーンのほかには「エジソンの箸」という子ども用の矯正箸を家では使っていたんだが、これはこれで、へんな癖がつくので役には立たない(子どもによっては役に立つ場合もあるかもしれない)。

世界には、箸を使えない使わない人たちもたくさんいるのだし、箸もつより食べることのほうが、大事よ。
という気持ちに変わりはないが、あまりに見事な一本箸使いが、少しはショックで、エジソンの箸をとりあげて、本物の箸を使わせることにした。

こんどは、あまりの不器用さに目を見張る。
「ぼく、むずかしくてできないよ。これだとたべられないの」と泣く。
それでもって、ちびさん、箸を使うのがいやだから食べない、とは言わない。「ぼく、もうおなかいっぱいで、たべられないの。ごちそうさま」と逃げるのだ。
夕飯をほとんど食べない、という日が何日かつづき(それでも箸しか出してやらず)すると、おやつの欲求がはげしくなり、もともと白いご飯がきらいなのだが「きょうはオムライスしようよう。カレーにしようよう」などと、箸を使わないメニューを要求する。

今のところの妥協点は、正しいもちかたでなくてもいいから、とにかく箸二本使って食べる。ごはんはかきこむ。おかずは、一本で突き刺して、もう一本は見た目だけ添えておく。

まあね、箸の正しいもちかたなんて、私もようやく最近理解したし。(それまで、使い方がおかしいと言われても、どこがどうおかしいのか、どうしても理解できなかったのだ。)難しいよ。

「ほんっとに、ママそっくり」とパパがあきれている。