人待てば

いまごろ、こんなもの出てくるなんて。
押し入れには、紙屑をつっこんだ段ボールが、いくつか埋まっている。その段ボールには触りたくなかったのだが、ほかのものを探すついでに、ふと開いた。ふと手にとったら、30年ほども昔の友だちからの手紙。何が書かれているかわからないくらい、そのあたりの出来事を私は覚えていない。覚えていないんだけれど、どうやら、私は人を傷つけたみたいだ、とそれだけはわかる手紙で、なんだかごめんなさいとひとしきり思う。私が忘れてしまったみたいに彼女も忘れていてくれたらいいなと思いつつ。

さて、古い手紙の類は、もう捨ててしまおう、と何度も思ってきたのに、私が死んだあと、家族に読まれるのは絶対にいやなので、もう本当に処分したいのだけど、こうして、私が誰かを傷つけたことを、ときどき思い出せるためには、まだ持っておいたほうがいいのではないか、と思って、また先延ばしする。

そして、まさか今ごろ、見つけるなんて。1990年10月に、はじめて蝦名泰洋さんから手紙をもらったときに、この連句作品の下書きのようなものが同封されていたのでした。引用の可否を問う手紙だった。それが最初だった。そのあと、同人誌か何かに載せたのかな、ページがふってあるから。出てきたので、貼っておきます。

連句しましょうって誘われて、そんな難しそうなこと、できるとも思いませんでしたが、あのころ。いまも、できると思えないけど。ずっと、できると思えないまま、両吟つづけてたのだった。

野樹さんのいいところはね、一首短歌をつくると、つくった瞬間に、短歌のつくりかたを忘れてしまうところだよ、

と言われたことが、昔昔、あったなあ。それはあたってる。私は、自分が短歌書けるひとだという気は今も全然しない。まして、蝦名さんのいない世界で。

7月26日、蝦名さんの一周忌だった。

次の短歌が届くんじゃないかと、まだ待っているような気持ちもどこかにあるんだけど。

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