身元引受人

バスを降りると、子どもは走って帰るらしい。ほかの子どもたちにからまれたくないので、群れを脱出しようと思って走るのだが、小さいし足は短いし、なかなか群れを出てゆけない。ふきげんに帰ってくる。調子よく群れを抜け出て、気分よく帰るときも、たまにはある。

抜け出ても、あとから追いかけられてきたりする。
昨日、帰ってまもなく、呼び鈴がなって、近所の同級生のS君が遊びにきた。宿題は?って聞いたら、すんだ、って言う。嘘をつけ。
いつも6時までいいんだといって、帰りたがらないが、宿題が済んでなかったら5時に帰るんだよ、という約束である。すでに4時。
1時間だけ遊んでゆけ。
30分後、S君のお母さんから電話。「今日は遊びに行ってはいけないって言ったのに。」「5時には帰しますから。」「それじゃまにあわないんです。もう出かけないと。」
お母さんから帰ってこいって電話かかってるよって言ったら、S君、あとずさりしながら、「英語、いやいや」と言った。
なんだい。
敵前逃亡してきたんかい。



夕方、弟から電話。
今度はなにごとだろう。
どうしたの、なにかあったのって、きくと、いや、何でもないって言う。
何でもないことは、ない。
申し訳ないんやけど、緊急時の連絡先に、姉さんの名前と住所、書かしてもらった、と言う。
ああ、ええよ。
っていうか、書いたもん、しょうがない。父のところにも兄のところにも行けないんだな。よっぽど関係こじらせたな。
持病の腰痛がつらいという。ときどき接骨院に行きながら仕事はなんとかつづけてる、と言う。

つまり、身元引受人になるのか。

長生きしよう、と思った。父と兄と弟を墓におさめるまでは長生きしよう。でなきゃあんたたち、身元不明の死体になるで。



今朝は雪。あたり一面、粉砂糖をふりかけたみたいな景色だった。
中井英夫戦中日記」読了。