雪の日の上着

金曜日は雪。子ども、雪のなかを学校から帰ってくる。
セーターは着ているが、その上のブレザーは着ていない。朝は着ていくが、帰りはいつも、ランドセルのなかにつっこんで帰ってくる。坂道のぼるので、寒くはないらしい。

でもランドセルのなかにもない。
どうしたのか聞いたら、首をかしげる。朝は着て行ったが、そのあとのことはおぼえてないんだと!

きっと教室に忘れたんだろう。パパがそっち方面に出かけていたから、帰りに学校に寄ってもらって、もって帰ってもらうことにした。

しばらくしてパパから電話。教室にない。じゃあどこに?

子どもは、ブレザーのことなんかどうでもいいみたいで、話しかけても上の空。宿題すませて遊びに行くことしか頭にない。で、遊びに行った。

またパパから電話。担任の先生の追跡取材によると、うちの子が忘れて行ったブレザーを、隣の席の女の子がもって追いかけたけど、バスは出たあとで渡せなかった。それでその女の子は、帰る方向が違うので、方向が一緒の別の女の子に渡したらしいのだが、そのあとがわからない。

ま、名札もついてるし、そのうち出てくるだろ、と思っていたら、しばらくして電話。隣の町内会の見回りパトロールのおじさんから。
おたくのお子さんのブレザーをあずかっていますよって。

どこかわからないけれど途中の道に落ちていたのを、高学年の3人組が拾って、パトロールのおじさんに渡したらしい。名札の裏に電話番号を書いていたので、それ見て電話をくれたのだった。

おじさんの家はスーパーの近くで、パパは学校帰りに買い物してるはずなので、電話して取りにいってもらう。

きっとブレザー渡された女の子、渡されたものの、困って道に捨てたんじゃないかな、と私は思った。

思い出した。私、小学校1年のときに、朝、近所の2年生の子の筆箱を、忘れていったからもって行ってって頼まれたことがあった。渡されて、しばらくそれをもって歩いていたが、行ったことのない2年生の教室に行かなきゃいけない、と思ったら、どうしていいかわからなくて、こわくなって、なんと、私はあずかった筆箱を道の真ん中に捨てて、学校に行ったのだ。
なかなかいやな思い出なのだが、その夜か次の夜か、親が新しい筆箱を買って、お詫びに行き、その筆箱をいらないと突き返されていた光景を記憶している。
結局、私が捨てた筆箱はほかの誰かが拾って、翌々日くらいには、無事2年生の教室のその女の子のところにたどりついたらしいのでしたが。

道に捨てた女の子も、あのときの私ぐらい、困ったんじゃないだろうかなあ。

とにかく無事、ブレザーがもどってきたので、担任に電話すると、担任のほうも、事情がわかりましたと言う。ブレザーをあずかった女の子は、金曜日だし荷物も多いので、抱えていたブレザーを、どこかに落としちゃったらしい。(ごめん。捨てたんじゃなかったんだね。)
それで、お母さんとふたりで、学校までずっと歩いて探したんだけど、見つからなかったんですって、いま連絡があったんですって言う。
歩いて探したって……、学校までかなりの距離で、しかも雪降ってる。
それは申し訳ないことでした。

さて子どもが帰ってくる。ブレザーがなくてもひとごとのようで、戻ってきてもやっぱりひとごとのようだ。まったく。
あのさ、おまえがまぬけなせいで、どれだけの人間に迷惑かけたと思ってんの。クラスのEちゃんとRちゃん、Rちゃんのおかあさん、ブレザーを拾ってくれた高学年の3人、パトロールのおじさん、先生、パパとママ。10人もの人間が、おまえのブレザーのために時間を使った。なのに、持ち主のおまえだけが知らんぷり。なんなのそれは。
Rちゃんとおかあさんは、雪のなかさがして歩いたんだよ。おまえの忘れ物のせいで、みんな大迷惑。
すこし反省しなさいね。

反省を促されると、子ども、両手で顔をおおう。
幼児のころからの、反省のポーズなのでしたが。
わかってんのかな。