小悪魔ちゃん

帰宅部というのはないらしい。何かの部活動に入らなきゃいけない。
積極的にこれをやりたいというもののない、行き場のない子らが溜まる部としては、男子は囲碁将棋、女子は茶道、華道、男女共通で情報科学、があって、息子は情報科学で、毎日パソコンで遊んで帰ってくるようになった。
ピアノ教室の先輩が吹奏楽部にいて誘われたし、何か楽器やりたいなあという気持ちも少しはあって、見学も行ったのだが、音がうるさくて、無理、とわかった。あの音のなかに、ぼくはいられない。
そんなわけで、最近は毎晩アニメ「響け! ユーフォニアム」の録画を少しずつ見るのが日課。高校の吹奏楽部の話。つきあって私も見てる。ユーフォニアムなんて楽器の名前、はじめて聞いたよ。
テレビでは合奏の音が全然きれいに聞こえない、と言って、うちのもうひとりの聴覚過敏男が、スピーカーをテレビに取り付けていた。
「これでよくなった」って言うけど、私はよくわかんないな。

隣の席の女子は「大人しいけど、たまに小悪魔」らしい。小悪魔という言葉が不思議だが、聞くとこういうことだった。
社会で、いろんな国の形がばらばらにかいてあって、それがどの国かをあてるという問題を出された。息子は一瞬でわかった。
通りがかった先生が書き込んだのを見て「まだ5秒しかたってないのに、しかも全問正解」と言った。それで隣の女子がのぞきこんで、「どうしてそこがモンゴルになるの」と訊いた。だってウランバートルはモンゴルの首都だから(首都の名前は書いてあるし、超簡単だったらしい)と答えたら、女子、
「むかつく」
って息子に言ったらしいのだった。
「でもぼくは、丁寧な言葉遣いで教えてあげたんだよ」と息子。
小学校が同じだったので、その彼女は、わりと気安く、他の教科でも息子にいろいろ質問するらしい。それで答えると、
「むかつく」
って返ってくるんだって。その「むかつく」のセリフが「小悪魔」の所以らしかった。教えてあげたのに、ありがとうじゃなくて、むかつくってなんだよ、と傷ついている。
ふむ。国語で、気持ちを問われる問題を、見事に外すわけだわ。
あのさ、その「むかつく」はどっちかというと、ほめ言葉だと思うよ。あんたすごいね、私はできなくて悔しいわ、とかそんなところでしょ。わかる?
「ああ、言われてみればなんとなく」と息子。

地味ーな顔の真面目で大人しい、小悪魔と言う言葉なんて全然似あいそうにないけど、あだ名ひとつついた。小悪魔ちゃん。