逃げまどう王様

朝。私は登校当番で、黄色い旗もって、公園からバス停まで、登校班を引率。

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今年、なんか人数多いよ。公園では13人だが、途中で次々増えて18人になる。1年生が5人いる。今日ははじめてのバス通学。

1年生かわいいけど、足が短い。

先頭の班長6年女子に、もうすこしゆっくり歩いてとお願いする。すると今度は後ろの5年生ぐらいがぶつかりあっている。

そのうちちょうどいい速さになるだろ。

さてバス停でバスが来たが、班長が乗らない。乗れない、と首をふる。でバスがゆきすぎる。

そんなにめちゃくちゃこんでいるのでもなかったが、座席はいっぱいで立ってる人もいて、1年生がすわれないから見送ったのだった。それはそれで6年生かしこい判断ですけど、すると隣の登校班がやってくる。

隣の登校班は次のバスで行くのである。乗るバスの時間をずらすことでなんとかやりくりしてるのでしたが、次のバスは乗れるのか?

しばらく待ってやってきた次のバスは、なんとか1年生だけはすわれそうだったが、この調子だと毎朝1年生の座席確保ってけっこうたいへんなんじゃないだろか。

朝の路線バスに耐えられず、登校班で登校できなくなった1年生が去年はひとりいた。今年2年生だが、今朝もいないから、まだ無理なんだろう。

雨の日なんかバス混むから、過酷だと思う。

慣れるしかないんだけど。

小学生が行ったあとのバス停には中学生が来る。こないだまで6年生だった男子3人が、いまどき詰襟の学生服来てやってくる。ひとりはすごく背が高いし、なんかそれなりにお兄さんに見えるよ。

無事に新学期ははじまったようだ。

去年同じクラスだったT君は別のクラスになり、それが、3年のとき息子をいじめた女子と男子のいるクラスになったので、今度はT君が連中にいじめられるんじゃないかと息子は心配していた。

「ぼくたちは全然似ていないが、いじめられやすいところだけは似ている」のだそうだ。

Tくんは息子に言わせると、

「仲良くしたいのか、いじわるしたいのか、わからん」

奴なので、息子は、正直クラスが別れてほっとしてもいる。

でも、帰りのバスが一緒である。

それでこの3日間毎日、Tくんがつくったミサンガをもらって帰ってきている。

刺繍糸を三つ編みしたようなやつなんだが、お姉さんいるから、そういうのもつくるんだろうなあ、でも、短すぎて、なんにするかなあという感じだけど、

1本目は「お母さんにあげたらよろこぶよ」ということで、私のらしい。

2本目は「昨日、いじめてごめんなさい」ってくれたって、いじめられたのか。

3本目は、なんかよくわかんないけどくれたらしい。

ふうん、三つ編みのミサンガねえ、と見ていて、ふと気になって息子にきいてみた。

「三つ編みできる?」

「? 三つ編みって何?」

あー。

できないのはちょうちょ結びだけではないな。

もしかしたら、と思う。

大事なことを、私は全然教えていないんじゃないだろうか。

三つ編みどころでない、なんかもっと大事なことを、私はすっぽり忘れているんじゃないだろうか。

なんかなんか、ほんとはおっきな欠落があるのに、私はそれに気づかないでいるんじゃないだろうか。

にわかに不安になってくる。

息子は、パパに教えてもらって、将棋で遊びはじめた。ようやく駒の並べ方と動き方を覚えただけなのに、当然ママには勝てるつもりでいたらしい。

パパに負けたあと、ママとやると言う。

晩ごはんのあと、つきあった。私も駒の並べ方と動き方しか知らないが、まだあんたに負ける気はしない。

「おおお、逃げまどう王様になってしまった」

とうめきながら逃げまどっていたが、息子、そんなに追いつめられてもママには勝てるつもりだった。

ほんとに負ける、ほんとのほんとに負けるのだとようやくわかると、王様はつっぷして泣きました。

パパに負けるのはしょうがないが、ママに負けるのはあまりにも情けなかったらしい。なんだよ。それ。