きみの知らないところで


 NHKハイビジョンでドラマを見た。『きみの知らないところで世界は動く』。
 原作は『世界の中心で愛を叫ぶ』の片山恭一。2作品とも原作を読んだのだが、物語の内容はあまり覚えていない。物語に出てくる場所ばかり頭に浮かべて読んでいたのだ。私の郷里の町が舞台である。

 『世界の中心で』で、主人公の朔太郎とアキが待ち合わせをしていた神社は、小学校の夏休み、私が毎朝ラジオ体操に通っていた神社だ。境内が広いので、放課後もよくそこで遊んだ。
 あの頃、制服姿の高校生は、なんだかとても大人に見えたものだった。

 『世界の中心で』は映画もドラマも別の土地でのロケだったが、今回の『きみの知らないところで』は、私の郷里でのロケだというので、見た。主人公たちのぎこちない方言はともかくとして、何から何まで、18歳まで暮らした故郷の町の、なつかしすぎる風景だった。
 神田川(じんでんがわ)のあたりも、海の景色も。夏のお祭り。牛鬼も。
 家族とも友だちともよく登ったお城山。左官だった父が、昔、補修工事に参加したという天守閣。お城山から町を眺めながら、本当はずっとこの町にいたいけど、大学もないし、会社もないし、出ていくよりしょうがないよね、と言った高校の友だち。
 病院は私の母が半年ほど入院して、そこで死んだ病院。その病院からの眺め。
 夕焼け。海。月。

 ドラマなど見ていない。背景ばかり見ていた。それにしても、20年30年変わらない故郷の町のたたずまいだ。いやもちろん、いろいろと変わっていることは知っているけれども。

 もうそこで暮らすことは二度とないだろう、と思えばすこし胸も痛い。