残雪の『魂の城』を手引きに、カフカを読み直そうと思って、本棚の奥から引っ張り出してはみた。 30年くらい前の文庫本は、紙の色が茶色く変質している。学生の頃、卒業する先輩か、下宿の隣人にもらったもの。本には見覚えがあるが、内容を思い出せない。もしかしたら読んでいないかもしれないと思いつつめくってみて、思い出した。『城』は読みかけて、途中で挫折したのだ。霧のなかで迷っていたような印象だけある。
 昼間、2歳の子の遊び相手をしながら読めるような本でもない。紙は茶色いし、それにまた字の小さいこと。本を読む時間と場所と、それから集中力を確保するのは、思いのほかに大変。

 風に乗り不在の城の風ぐるま (加藤郁乎)

 カフカの城も加藤の城も、残雪の本のタイトルそのままに「魂の城」なのだろう。私がその城に気づこうと気づくまいと、たどりつけようとたどりつけまいと、風は吹き、風ぐるまはまわり、私は城下で生かされている。