7月の雪


 雪降っている。降りしきっている。

 むかし、7月に雪の降る夢を見た。母が死ぬ4か月前だ。
 突然の雪なので、病院の土台が崩れるおそれがあると、看護師が走ってきて言った。私は母を抱いて (どういうわけか母は、腕のなかにすっぽりとおさまってしまう) 病院の外に出た。
 視界がかすむほど雪が降っている。背後で、さっきまでいた病院が崩れ落ちる気配がする。腕のなかで母が「お家に帰れるね」と言う。「うん、帰れるよ、帰れるからね」と私はこたえながら、家は、かすむ視界の向こう、もうとっくに壊れ去っているのだと知っていた。

 夢の野に雪ふりしきり赤ん坊のように小さな母を抱いていた (野樹かずみ)