雪明り


 伊藤整の小説は、高校1年の頃わりと集中して読んだ。ほとんどの内容をもう覚えていないが、『幽鬼の街』『生物祭』は15歳の私に強烈な印象だった。『幽鬼の街』は主人公が故郷の小樽で、小林多喜二や少年時代の自分や、いろんな幽鬼に出会う話。それ以来、小樽は気になる町になった。

 それから10何年たって、はじめて北海道に行ったのは3月。3月に雪、3月に氷点下、という四国生まれの私には考えられない気候風土。小樽の町も1日歩いた。憧れの町だったから、いろいろ見て回ったと思うのだが、いま記憶に残っているのは、雪の坂道を足もとばかり見て歩いていたことだ。

 伊藤整にとっての『幽鬼の街』は小樽だが、私は私の故郷の町で、あれこれの幽鬼たちに出会わなければならないことを、すこし思ってみたりする。

 あのころ伊藤整の雪の詩が好きだった。

雪明りだよ。
案外に明るくて
もう道なんか無くなつてゐるが
しづかな青い雪明りだよ。
      伊藤整「雪夜」