桜と寿司


 向かいの森の桜が、咲きはじめた。(大きな桜の木が数本あるのだ)。そういえば去年のこの時期、子どもはまだ歩きはじめたばかりで、桜降るなか、家の前の坂道を、よたよたよたよた歩いていた。
 今日も軒下のブロックに並んですわって「桜、咲いたよ」と子どもに言ったら「サカナ」と返ってきた。いえ、サカナではなくてサクラ。もうすこし咲いたら、2階の窓からお花見しよう。雪柳も咲きはじめた。雪柳が咲くと、ああこれから、なだれるように春がくる、と思う。

 午後からは雨。だんだんどしゃぶり。そっちに行くから夕飯を一緒にしようと義父から電話があったので、待っていると、どしゃぶりのなか、苺とパイナップルを抱えてやって来た。雨がすごいから食事はまた今度にしようか、という話になりかけるが、今日は外食、と期待している私は、なんにも夕食の用意をしていない。子どもはおじいちゃんがくれば、ドライブするものと思っているし、やっぱり出かけることになる。
 回転寿司で子どもは、卵とえびとハンバーグとうなぎを食べ、水のコップのアンパンマンの絵を見て「ドキンちゃんドキンちゃん」と喜び、キティちゃんの絵のジュースが回ってくる度「ねこ、ねこ」と言い、よく食べ上機嫌で、孫が機嫌よければ、おじいちゃんもご機嫌よろしく、子どものおかげで、久しぶりに寿司にありついた私たちだった。

 家で私がつくるのは、残りごはんに合わせ酢をふりかけて、安売りのいわしの缶詰と川で摘んだクレソンを混ぜ込んだものに、錦糸玉子と海苔を散らした散らし寿司、というより混ぜご飯か。とても安くて簡単。子どもが食べてくれるから、それなりにおいしいと思う。
 子どもは、まずくても食べてあげよう、というような心遣いは、してくれない。うらやましいほど素直に、いやなものは口から吐き出すのだ。