反論!

 今年幼稚園にはまだ行かないので、かわりに、音楽教室に通わせることにしたのだった。昨日は3回め。教室は月に3回だけだが、えらく楽しみにしていて、家でも毎日テキストの絵本を見たり、CDを聞いたりしている。ところがだ、家では歌も歌う子が、教室に行くと、歌わない。それどころか、みんながすわっているときも、教室のなかを走り回るし、床に寝転ぶし。これまで3回、毎回そうなのだ。かといって、楽しんでいないかというとそうではなく、たぶん人一倍楽しんでいる。みんながカスタネットを叩くとき、カスタネットを叩くかわりに、自分がカスタネットになって、教室の真ん中のフロアで、とびはねる、という感じ。みんなが歌うときは、わざと口をつぐんで鼻歌をうたっている。
 子どものパパに、その様子を伝えると、やめさせるか、という話にいつもなる。でもまあ、授業のじゃまはしていないし、経験はしておくべきだから、楽しんでいる間は、つづけさせよう、ということで落ち着き、帰りにおともだちひとりひとりに「よろしくね」を言っていてえらかったんだよ、とそれだけはほめてやった。
 
 夜になって、またその話になった。3歳半の子どもに理解できる内容とも思われないんだが、ものを習うには、道というものがあって、音楽を楽しめる人になるには、そうなるための道筋がある。人の言うことをすなおに聞けなくて、こんなにあまのじゃくで、反抗心が強くては、今は自分の勝手にやって楽しいようでも、そのうちつまらなくなるよ、きみのような生き方は、結局損だよ、とか話していた。
 子どもは、聞きたくないらしく、とちゅう、口をはさんで、新幹線の話をしようとしたり、いかにも不満そうにパンなど食べていたが、やがて怒って右手でパパを左手でママを叩くと、戸をぴしゃんと閉めて、向こうへ行ってしまった。
 
 それからしばらくして、子どもはパパのところにきて、こう言ったんだそうだ。「よろしくね、したの」
 自分は、教室のお友だちによろしくねを言ったんだ、と反論に来たのである。おまえたちが言っているようなだめな人間ではないのだという反論である。
 こいつはすごい、と思った。あれだけ言われて、こういうふうに言い返しにこれる、しかもまとをはずれてない。なんだか、とても強くしなやかな精神がある。
 
 一昨日は療育センターに行ったのだった。医師といろいろ話をしたあと、いくつか気になる点もありますから、発達検査と、言語療法士作業療法士の観察を受けてくださいということになった。子ども、できることとできないことのギャップがすごい。このアンバランスは、世の中で生きていくのになかなか大変ではないか、と心配したりするのだが、そんなふうに反論できる強さがあるならきっと大丈夫だ、と思った次第。