恐竜のしっぽ

 恐竜というのは、とてもとても大きいから、しっぽを踏まれたり傷つけられたりしても、すぐには気づかなくて、痛みが、伝わるまでには時間がかかる、という話を、昔、聞いたことがあるような気がする。
 子ども、たいていいつも、何かに気をとられていて、呼びかけても、人の話が入っていかない。オウム返しするか、いや、というか、しらんぷりするか、である。何度も同じことを言うのも疲れて面倒くさいんだが、反応がないか、反抗的だから聞いていないのか、というと、そうでもないこともある。
 毎週一度、療育センターの支援学級に通っているのだが、来週行くときは、好きな絵本を一冊もっていくことになっていて、それで数日前、「どの絵本をもっていこうか」と子どもに声をかけた。声をかけたが、返事なし。
 最近は、もっぱら電車や新幹線の本や、乗り物図鑑ばかりを眺めていて、あまり絵本も読まなくなっているので、興味もないのだろうか、やれやれと思って、そのまま忘れていたら、次の朝、「ママ、これとこれとこれとこれとこれとこれとこれ」といって、次から次へと絵本を積み上げている。「これ、どうするの」ときいたら、「りょういくセンターもっていくの」と言う。なんと、声をかけてから12時間後に返事をしてくれたのだった。
 いやそんなにたくさん、10冊も20冊ももっていけない、1冊か2冊でいいんだよ。
 それにしても、ずいぶんずいぶん長い、恐竜のしっぽなんだが、なんだか自分に似ていて、ため息がでる。
 
 人とのやりとりで、人が言おうとしていることが、(とくに言外の意味が)、よくわからず、ぼうっとしていると、「おまえは人の話をきいてない」と言われることがよくあって、きいてなくはない、きいているんだが、きいているというふうに反応はできていないようで、それから何日か、あるいは何年もたってから、ああこういうことか、とわかって、返事を返そうと思ったときには、もう目の前に相手はいない、ということがよくあるというか、なんだかそういうことばかりだ。
 そんなわけで返しそびれた返事を、もしかしたらこんなかたちで、書いていたりするのかもしれないなあ、と思う。