くるくるまわる

 幼稚園に行く。就学前の子どものためのクラスがあったので。
 ちびさん、はじめて幼稚園というところに行ったのだが、玄関で、いきなり、くるくるまわりはじめた。
 
 くるくるまわる。くるくるまわる。くるくるくるくる。
 
 まわったら落ち着いたようで、教室にあがった。リズム遊びだったが、先生のいうことを聞くはずもなく、お母さんと手をつないでっていったって「はなしてよー」と逃げ出すし、女の子の前に行って、舌をぺろぺろ出して見せるのは、なんなんだ。
 ちびさん、鳥や獣の求愛なら、それもありだろうが、人間の女の子相手には、たぶん気持ち悪がられるだけだと思うよ。
 
 折り紙や新聞紙を使う遊びは大丈夫で、楽しそうだったけど、終わったあとは、別の部屋のままごと道具で遊びたがって、帰らないと泣く。遊んでいいと言ってもらったので、すこし遊んで帰る。ほかに女の子たちふたりほどいたが、一緒にいるけど一緒に遊んでいるわけではなく、関心はままごと道具に向いているので、ここでは、求愛行為はなし。
 
 夕方、一緒に遊んでくれた近所の2歳上のマサ君に向かって「おまえからさきにたいじしてやる」などと言い、頭を叩く。ちびさんとしては、バイキンマンの真似をしているだけなのだが、マサ君さすがにムッとしていた。そんなことに気づきもしないちびを捕まえて、謝らせたが、「あやまったんなら、いい」とおもちゃを貸してくれたマサ君は、しばらく見ない間に、なんだかとてもお兄さんになっていた。
 
 女の子に向かって舌をぺろぺろしないこと、バイキンマンの真似をするときは、きみがバイキンマンになっていること、真似をしているだけだなんて、きみにはわかっても、他の人にはわからないこと(それがなかなかわからなくて、私は大人になっても苦労したわ、と思いつつ)、バイキンマンになったっていいことはなんにもないんだからやめなさい、などと言い聞かせたが、「じゃあ、たまごちゃんになる」という返事はなんなんだろう。
 
 くるくるまわる、のには覚えがある。私もくるくるくるくるまわっていた。くるくるまわるものも大好きで、散髪屋のネオンなんかもう、どきどきして、たまらなかった。