のんだ

昨日の午後だ。
遅い昼ごはんのとき、「なんにもたべない、なんにものまない」と言っていたちびさんが(遊びを中断させられるのがいやなのだ)、それでいつも、ほとんど食べない子が、どうしたわけか、おかわりまでして、めずらしいこともあるもんだなあ、と思っていた。
で、ごちそうさまして、向こうの部屋に行った次の瞬間、

「たまがなくなったの」とやってきた。
「たま?」
「きのみあつめゲームのたま」
(パチンコ玉よりすこし小さいくらいの銀色の玉だ。おじいちゃんに買ってもらったゲームの)
「いっこなくなったの」
「どこへやったの」
すると、自分の口を指して、「ここ」というんである。
「のんだの」
「うん」

それから大騒ぎ。病院電話しなきゃ。
(びょういん、ときいて、ちびさん泣く)
行きつけの小児科に電話するが、通じない。土曜日だ。
「じゃあ市民病院まで行こう」
びょういん、いやあ、とちびさん、泣く泣く。
「だからおもちゃを口に入れるなって、言ったよ」

小さい頃は、そんなでもなかったのが、最近になって、なんでも口に入れはじめた。小さい玉を飛ばして遊ぶゲームをおじいちゃんに買ってもらったのを見たとき、いやーな予感はしたのだ(で、取り上げようとしたのだが、あそぶのー、と泣かれてあきらめた)。捨てときゃよかった。

「病院に行って、腹きるぞ」と、パパが言う。
ちびさん、泣き狂う。
「ばか。口に入れるなというのに口に入れるからだ、腹きってとりださなきゃ」とパパ。
あんまり泣き狂うので、「先生に、どうしましょうかって相談するだけだよ。それからどうするか決める」と言って落ち着かせて、車に乗せる。

父も母も、なんとなくわかってはいる。うんちといっしょに出てくるのを待つだけだろう。しかしだ、ここで大騒ぎしとかないと、このちびは、注意したぐらいでは、口にものをいれるのをやめられまい。
「どうやって出すかな」
「だから腹きるしかないだろう」
というような会話をするたびに、ちびさん、顔をゆがめて泣く。(親たちは半ば、笑ってしまいそうだが、笑ってはいけない気もして、表情に困る)

土曜なので、急患の受付に行き、言われるまま処置室につれていくと、看護師さんが脈だけはかって、「顔色もいいし、のみこんでしまったんなら、出てくるのを待つだけですよ。いろんなもの、飲み込むんですよね」と笑う。
「よかったね。おなか切らなくていいってさ。またおもちゃ口に入れる?」
「いれないの」と、いい返事。
念押ししとく。「今度は腹きるからね」
「わかった」

やーれやれ。出たついでに買い物する。帰って、いまいましいゲームを捨てる。あとはうんちを待つばかり。