サラミスの兵士たち

サラミスの兵士たち」ハビエル・セルカス著 河出書房新社
読了。スペイン内戦を舞台にした小説。
でも登場人物たちは実在の人物であったりもするらしいから、ノンフィクションのようにも読めるかもしれない。作家になろうとして挫折した新聞記者が、スペイン内戦時のあるエピソードを調べていく。戦争文学だが、重苦しくなく(しかし、ちょうどよい重さはある)半ば謎解きのように楽しんで読んでいて、終わり近く、いきなりなにかを納得させられる。それは、戦争とは、文明とは、歴史とは、人間とは、といったことについての納得なのだが、その納得を説明するのは難しい。

「なぜなら、こたえのないことが唯一のこたえだと、もうわかっているから。唯一のこたえは、ひそやかな、はかりしれない喜びなのだ。残酷さと隣りあわせのもの、理性とは違うが本能でもない何かだ。血液がいつでもその血管の中を流れ、地球が変わらぬ軌道をたどり、どんな生き物もつねにその生き物でありつづけるのと同じ盲目的な頑迷さで、理性の中に生きつづけている何か。小川の水が石をよけて流れるように、言葉を避けていく何か。」

「彼はある一人の男のことを考えている。勇敢で天性の徳があり、だから決してまちがわなかった男、まちがってはならない肝心な瞬間には決してまちがわなかった男のことを」

まちがってはならない肝心な瞬間には決してまちがわない──これは重要なことだと思う。人間社会の人間らしさは、そのような人たちによって守られている。「サラミスの兵士たち」とは、「最後の瞬間に文明を守った」古代の伝説の兵士たちのことらしい。