症候群

妖精みたいな顔をした女の子だなあと、生まれたときと、それから1年後の写真を見て、思っていたんだけれど、東京に行ったら会いたいと思っていたのに、電話番号のメモの数字の書き間違いで、会えないまま帰ってきたら、向こうから電話がかかってきた。
赤ちゃん、ウィリアムズ症候群という診断らしい。
きっと、飲まない、眠らない、泣きやまない赤ちゃんだったろうから、それは大変だったろう。

きっと音楽とお話が好きで、人なつっこい妖精みたいな女の子になるよ。遺伝ではないけれど、お母さんもまた、どっか妖精みたいな女の子だし。

りくが元気で、何も問題なく小学校に行っているというと、義父は、そらみろ、医者の診断は間違いだ、りくが発達障害なんかであるもんか、という口ぶりで、私はどうもいやな気分になるんだが、まあ、黙っておく。

もちろん遺伝子欠損というような障害ではないし、知的遅滞もないし、見た目からはわからない、アスペルガー症候群と診断されるもされないも、運とかなりゆき程度のことだったかもしれないが、りくはりくで、診断されるなりゆきだったし、それはかなり幸運なことだったと、私は思う。
で、そのなりゆきを大事にしたいと思う。

ふつう、の檻のなかに、閉じこめて安心したってしょうがないし、そう考えると、檻を出ていく鍵のひとつを、りくは手に入れたかもしれない。私たちもまた。

聞いたこともない症候群の女の子に感じる親しみは、子どもが自閉症スペクトラムとかアスペルガー症候群とか、診断されなければ、また、ちがうものだったかもしれない。

でもほんとに妖精みたいなので、お話に出てくる妖精は、ただの絵空事ではないなあ、と思った。ちゃんとモデルがいたんだと思う。