予土線

Img_3557 お昼ごはんは隣の道の駅の「森の三角帽子」。
朝摘みの野菜なんかを売っている市場の横の食堂で、山菜うどん食う。なぜか、ショパンの「革命」が、かかっていた。

それにしても、緑。山の緑。田んぼの黄緑。木の緑。草の黄緑。川土手の芝の緑。緑は、炎のかたちをしているとおもう。それくらい、あつくるしい緑。

高校の頃に覚えた、中也の詩を思い出す。覚えたのは、夏の詩ばかりだ、そういえば。

子どもと、予土線に乗って宇和島駅まで。予土線に乗るの、高校生のとき以来だ。
ひたすらな田園風景のなかを1時間ほど。




少年時  中原中也


黝い石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡つてゐた。

地平の果に蒸気が立つて、
世の亡ぶ、兆のやうだつた。

麦田には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だつた。

翔びゆく雲の落とす影のやうに、
田の面を過ぎる、昔の巨人の姿――

夏の日の午過ぎ時刻
誰彼の午睡するとき、
私は野原を走つて行つた……

私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦めてゐた……
噫、生きてゐた、私は生きてゐた!



夏   中原中也

血を吐くやうな 倦うさ、たゆけさ
今日の日も畑に日は照り、麦に日は照り
睡るがやうな悲しさに、み空をとほく
血を吐くやうな倦うさ、たゆけさ

空は燃え、畑はつづき
雲浮び、眩しく光り
今日の日も陽は炎ゆる、地は睡る
血を吐くやうなせつなさに。

嵐のやうな心の歴史は
終焉つてしまつたもののやうに
そこから繰れる一つの緒もないもののやうに
燃ゆる日の彼方に睡る。

私は残る、亡骸として――
血を吐くやうなせつなさかなしさ。