けんこうのため、なんぶへいきます。

部屋じゅう紙屑が散乱している。
学校のプリントもあるが、私のメモもあるが、子どものお絵かき用の紙(おじいちゃんの差し入れ。大学で不要になった資料の裏側を使う)にお絵かきしたやつが、整理のしようもなくて散乱しているのだ。
なかに貼り紙もある。ときどき玄関の戸に貼られている。
「2かい ホテル むりょう フロントけんはいりません」
とか。
ときどき出現する貼り紙が、差し押さえの紙でなくてしあわせだ。

「けんこうのため、なんぶへいきます。」というのもあった。
トムとジェリーに出てきたんだろう。
で、それを貼り紙にしようと思いついたタイミングが最悪だった。
これからパパと出かけようと準備をしていたさなか。
「ちょっとまって」といいながら、全然関係ない遊びをはじめたわけだから、(でも出かけるときだから思いついたわけだけどさ。パパの機嫌を損ねるにはじゅうぶんなタイミングの悪さだったのだ)じゃあもう、行かないぞ、ということになった。
行きたかったのである。玩具屋。そこで電車走らせたかったのだ。
泣いてゆるしを乞うが、とりあってもらえない。
おまえだけ、勝手に南部へ行け、とパパは言うんである。

すると猛然と、机に向かって何かをかきはじめた。

「なんぶへいくのは、しっぱいしました。」
という紙を、パパの目の前につきだしている。
払いのけられる。
また書く。
「なんぶへいくのは、ほんとうにしっぱいしました。」
また払いのけられる。
また書く。
「ゆるしてください。」

で、男の子たちふたり、仲良く遊びにゆきましたが。



角の家の大きな犬は、吠えなくなった。というか、毎朝、子どもの通る時間に、その家の奥さんが、庭に出て、犬をかまって黙らしてくれるのである。かまってもらうと黙るのだ。で、おばさんが「いってらっしゃい」と手をふってくれるのがうれしいらしく、何か通じあうところもあるらしく、子どもも「おはようございます。いってまいります」と手を振ったあと、何度もふりかえって、「またおひるにねえ」と帰りの約束までしている。
老人会の会長さんは、帰りのみまわりパトロールの当番のときは、近所なので、うちの前まで子どもを連れて帰ってくれるんだが、小学校に行ったときに、あいさつできて立派な子だと、名前をあげてほめといたから、と言っていた。

愛されているようである。よしよし。