九月の静寂(しじま)

 1日じゅう雨。しずかに降りつづいた。花ざかりのシュウカイドウの桃色が雨に濡れてきれいだった。ユリオプスデージーの黄色、白い槿、ブルーセージの濃い青の色。小雨のなか、庭に赤とんぼがきていた。

 今日から九月。ふと「あの日と同じ九月の静寂(しじま)」といフレーズが蘇り、何だったろうと考えていて思い出した。ポーランドの歌手、エヴァ・デマルチクのCDの訳詞の一節だ。それで、何年ぶりに引っ張り出して聴いている。『エヴァ・デマルチク・ライブ』オーマガトキ社が扱っている。
 音楽が鳴り出すと鳥肌が立った。そう、こういう音、こういう声、こういう歌い方だった。このCDが出た92年頃、憑かれたように聴いていた。歌詞も圧倒的だが、歌詞によって歌い方がまったく変わることにも驚いた。激しさと繊細さと、痛さとやさしさと。
 そのなかのとりわけ繊細なささやくような声でうたわれる「トマシェフ」という曲の歌詞。

「それなら あなた
日帰りでトマシェフまで行ってみないこと?
あそこにはまだ 黄金色した夕暮れに
あの日と同じ 九月の静寂(しじま)が
   佇んでいるかもしれないわ……」

 そうどこかに、もうどこにもないけれど、子ども時代の穏かな日々も、いろいろとせつないことも多かったいろんな場所も、その傍らにいた人たちも、もういないけれど、でも、たずねて行けばどこかに、あるような気がしている。あの日と同じ九月の静寂……。