もうすぐ3歳

 親たちは携帯をもっていないが、子どもは玩具の携帯をもっていて、「あ、あたし、さつき」としゃべっているのは、トトロの電話の場面をしているのだが、本物の電話が鳴ると、電話に出たがってうるさい。電話に出ても何を話せばいいのかはわからないらしく、横で親が言うことを「こんにちは」とか「おばあちゃん、げんき」とか口真似しているだけなのだが、昨日お婆ちゃんからかかってきたときは、たまたまテレビが、ケーブルテレビの天気予報のチャンネルだった。受話器に向かって子どもはにわかにしゃべりだした。「おひさま おひさま くも くも くも くも」「ぜろ ぜろ ぜろ ぜろ」(降水確率)「かわく かわく」(洗濯物指数)「JAバンク」(広告)「おれんじ あお みどり」(画面の色)それからまた「おひさま おひさま くも くも くも」。実況中継しているのである。おもしろかった。
 絵本を、すこしだが自分で読むようになった。外に出ると看板を読む。「ママあそこ、ママあれ」とひっきりなしに指さして、うるさいこの頃だ。そういえば1歳半検診のときには、指さししますか? としつこく訊かれたのだ。いいえ、しません。全然しませんか? はい、全然。それは成長のひとつの目安であるらしく、指さししないし、2歳になっても喋らないし、保険センターの親子教室に通うことになったのが去年の終わりだったけれど、思えばそれから1年の成長はすごかった。
 言葉を喋るより先に字を読むことを覚え、ひらがなカタカナ数字アルファベットが読めるようになり、指しゃぶりがおさまると、そのあと、指さしをするようになった。
 指しゃぶりをやめた日のことは印象的だった。やめさせようと決意して4月の雨の日、指しゃぶりするほうの手の袖口を輪ゴムでしばって、手を出せないようにしたのだ。指しゃぶりする度に輪ゴムでしばっていたら、数時間、転げまわって泣き狂っていたが、そのあと、嘘のようにぴったりおさまった。えらい子だなあ、と感心させられたことだった。
 「ママあれ、あそこ」と言ったあと、つづけて「わかったわかったわかった」と言っているのは、私の口真似をしているのだ。何はともあれ、しゃべっている。
 「電池も入れないのに動いてるよなあ、すごいなあ」と夫は言ったりする。たしかになあ。すごいなあ。もうすぐ3歳。