夢のような

夕方、スーパーに買い物に行く。
ちびさんは、ほしいものを買ってもらえないとか、買い物の順番(ルート)が自分の思い通りでないと、泣いたり怒ったり。
「かうのー」と泣く子に向かって「お金がないから買えませんんんん」と店内で叫ぶのも、私はすっかり平気になった。泣きじゃくる子をひきずって歩くのを近所の人に見られるのも平気。最近はひきずって歩くのが重いから、そこに捨てていく。
ちびさん今日はすねて、勝手にお手伝いカートを押してすたすた行ったら、そのまま、私とも、一緒にいたパパともはぐれて、あとで大泣きしながら、店員さんに連れられてきたわ。
それでレジに行くのに、自分の行きたいレジと違うレジに行ったといって、また大泣き。すこぶる面倒くさいのだ。
 
さて、スーパーからの帰り、駐車場で、2歳くらいの男の子が、ひとりで歩いていた。危ないよ、親は?
と私とパパは思ったんだった。
見ると母親らしき人はすぐ傍らにいて、両手にスーパーの買い物袋を抱えている。これでは子どもの手をひくのは難しいだろうが、手をつながずに歩いて大丈夫なのかしら?
と思いながら見ていると、子ども、ママから離れず、ママのあとを、けなげにひたむきについて歩いているのだった。
 
「夢のようだ」とパパが言い、信じられない光景だと、私は思った。
 
うちのちびさん、ママのあとをおとなしくついて歩いたり、なんてことは絶対になかった。車がくるから危ないんだと、何度教えたって、どこへでも飛びだしていくから、むりやり腕をつかんでいなければ、危なくて、外なんか歩けない。自閉症の子が、道に飛び出して、何度も車にぶつかって怪我をした(怪我ですんでよかったけど)という話を、療育センターのドクターがしていた。まわりが目に入らないのだ。
 
思えば、ちびさんが勝手な方向に走り出す度に、「どうしてちゃんとつかまえてないんだ」とか「なんで見てくれていないのよ」とか、私たち夫婦はどれだけ言い争ったことか。
一度ちびさんが車の前に飛び出しそうになって、肝を冷やしたとき、パパはあたりもはばからず叫んだんだった。「もうこんな怖ろしい思いをするのはいやだ! 耐えられない!」
 
家庭崩壊するかしら、と思った。
 
今は2歳や3歳のころに比べれば、ずいぶん話も通じるようになったし、すこしはまし、な感じもするけど、それでも子連れの外出のストレスは相当なもので、今でも、ちびさんとふたりで買い物なんて考えられない。荷物とちびの両方をもてない。今でも、外に出る度に、危ない!とか、走らないで!とか、叫んでいる。
 
「かわいいねえ。ママのあとを小さい子がいっしょうけんめいついて歩くなんて、こんな夢のような光景もあるのねえ」
などといいながら、駐車場にとめた車の窓から、しばーらく、母と子の姿を眺めました。
 
ちびさん、あの小さな男の子を、すこーし見習ってほしいんですけど。無理でしょうか。無理でしょうね。