「霧の中の風景」

いちばん好きな映画
アンゲロプロスの「霧の中の風景」1988年

国境の向こうにいる父親に会うために、旅をする姉弟。ほんとうはどこにもいない父親は、神さまみたいなものかもしれないが、神さまなんかいてもいなくても、会うためのつらい旅を、はじめなければならないし、国境も越えてゆくのだ、という物語。

国境の向こうには、一本の木。
弟の指さきから晴れてゆく霧。

音楽はEleni Karaindrou


主人公の女の子の表情やしぐさが、幼ななじみの一歳年上の女の子に似ていて、見る度に思い出す。りえちゃんと呼んでいた。両親は小さい頃に飛行機事故で亡くなっていて、お婆さんとまだ未婚の叔父さん叔母さんと暮らしていた。孤独感の強い、とても頭のいい女の子だった。小学生のころ、私は彼女に遊んでもらえることが嬉しくて、彼女のあとをついてゆくのが好きだった。
彼女が突然いなくなったときに、どんなに心細くて途方にくれたか。
一度目は中学の時に、知らない間に引っ越していて。高校で再会したときには同学年になっていてとまどった。(私は何もきかなかったし、彼女も言わなかったが、不登校で一年遅れたのだ)そして一年もたたないうちに、また見失った。
ずっとあとになって、彼女がフランスの詩が好きで、フランス語を勉強するために東京に行きたがっていた、という話を聞いたとき、置いていかれた、と思って泣いた。
りえちゃんが高校を中退したあとの消息を知らない。