絶望色の

ちびさん、夜ごはんのころになって、
クリスマスリースをつくる」などという。幼稚園でつくっているのを、つくってみたくなったらしい。
「もう夜だから、明日にして」と言ったら、
「うん、わかった」と言った。
と言ったが、私がガスレンジの前から離れられずにいる間に、新聞をぐちゃぐちゃにしてねじってわっかにしてガムテープでとめてリースのかたちにして、部屋に新聞紙をしいて絵の具と水を出して、新聞のリースに色を塗り始めている。
ああ。
全然ひとの言うこと聞いてない。

気持ちはわかるのだ。
ぼくはいま、リースをつくりたい。ぼくはいまつくりたいんだから、いまリースをつくらないことには、明日なんてこないのである。

こうなると無理やり中断させるのもこじれて面倒なので、色を塗った新聞リースの片面がかわくのを待つ間にご飯を食べさせて、つづきはご飯のあと、私も手伝ってやった。

色を塗るちびさん、最初は緑の絵の具だったのが、色を混ぜるということをはじめた。色を混ぜる。いろいろな色を混ぜる。いろいろな色を混ぜると、ついには何かしら絶望的な色になる。
もとの緑を呼び戻そうと、緑の絵の具をしぼってみるが、パレット全体がすでに絶望の色なので、どうにもならない。

気持ちはわかるのだ。痛いほど身に覚えがあるのだ。きれいな色をつくりたいのに、混ぜれば混ぜるほど絶望の色になる。それなら混ぜなければいいのに、やっぱり混ぜたい。そうして、こんなはずではなかった絶望色の絵を、いつも提出することになるのだった。山も絶望色、海も絶望色、地面も建物も絶望色の、絵。

とっておいた赤や黄色の、くまさんや飛行機の模様のはぎれを出してやる。これをリースにまきつけるのはどう? そうしたら新聞の色が変になっても大丈夫だよ。

ちびさん、ほっとしたようで、もうためらわず、絶望色を新聞リースに塗っていく。(いちいち塗らなくてもよさそうなもんだが、それでは出して混ぜてしまった絵の具がもったいない。)

絶望色の新聞リースに、端切れをまきつけ、毛糸やリボンをまきつけ、にこにこ顔の星もぶらさげて、クリスマスリースできた。

ちびさん、絵の具を自分で片づけているのは、感心だった。

せっかくなので、玄関に飾った。絶望色は、はぎれに隠されて見えない。なかなかかわいくなったよ。ついでにクリスマスツリーの小さいほうも飾った。もらったのが2つもあるのだ。