楽しい朝

先週の金曜日だ、老人ホームに沼田先生を訪ねて、そのあと、
ちょうど近くだったので、古い知人のF老夫婦(82歳と81歳)を訪ねた。9月におばさんと一緒に宇和島に帰ったとき以来。
おばさん、癌があちこち転移しているのだが、麻薬のシールを貼ると、それで痛みもなく普通に生活できるらしく、近所にお出かけ。

最近、みるみる弱ってきたのはおじさんのほうで、頭に水がたまるらしいのだが、それとは別に気づかない間に脳梗塞をしていたらしい。動くのも喋るのも不自由になった、耳も聞こえん、と言いながら、冷蔵庫の奥から、くだもの缶を次々と出してきて、「もって帰れ」という。以前のようにビールが出てこないところを見ると、もう飲めなくなったのかな。
「夏に入院したが、治療することもないと追い返された。次は1月に診察に行くが、先生、わしはそれまで生きとるやろか、ときいたら、医者は答えんかったぞ」と笑う。「いまはおばちゃんが面倒みてくれるけんええが、おらんなったらどうするか。この年になって、あんまり人に迷惑かけとうないぞ」などと言う。
いやいや、その年になったら、みっともなく誰かれに迷惑かけまくって、長生きするのがかっこいいと思うよ。
「不眠で朝方まで寝れん。ようやく寝て、10時くらいに目が覚めて、わしはまだ生きとるのか、と気づくわけよ。朝が楽しいわい」。
帰ってきたおばさんに、くだもの缶は好物だろうに、もらって帰っていいのかときくと、いいわよいいわよ、というので、遠慮なくもらって帰った。

「朝が楽しいわい」というおじさんの声が、いつまでも耳に残った。