川は流れる

しばらく前に図書館で借りて読んだのだが、西原理恵子「この世でいちばん大事な「カネ」の話」(理論社)は面白かった。
同世代で、出身地も近いのである。高知と愛媛。たいへんに共感をもって読んだ。同じ匂いがする。くんくん。何の匂いかというと、あの時代の、四国の田舎の、あの貧しさの。
貧乏の底にいたおじさんおばさんたちの。にいちゃんねえちゃんたちの。博打やヤクザや借金や、ヤクザになったり水商売したりする男の子たち女の子たちの。
まあそういうことが書いてある。見知らぬ他人の話なのに、えらくなつかしく読んでしまった。貧乏というのは、たしかにそのようなのでした。10代の私が混乱しながら直面していた現実は、こういうもんであったと、なんてさくさくと、書いてくれていることだろう。

うちは父が真面目に働いていたから、食うに困らなかったけど、隣近所は食うに困っていた。旦那が働かないとか、働いても家に金入れないとか。夫婦喧嘩で壊れた近所の家のドアを父はなおしてやったりしてたし、お昼ごはんをうちで食べていたおばさんもいた。
夜になると居候していたくー兄がどっからか連れてくる若い衆たちも、いろいろ生き難かったんだろう。
で、みんなご飯食べていくので、毎日たくさんお米をたいて、おむすびや、たくさんのゆで卵が、いつもちゃぶ台にのっていた。私の母が、おむすび食べさせてくれたと、今だに言ってくれる幼馴染がいたりする。
そんなことを、あれこれ思い出した。

本の話にもどると、義父さんが、博打の借金で自殺したあと、東京に出たあとの西原さんは、なんというか、いやすごいわ。さすがと思いました。真似できないし、たぶん、してはいけない。
とても読みやすくて(念のためですが、マンガではなく文章の本。)ためになる。博打は、そもそも胴元が儲ける仕組みなので、そうでないものは、身ぐるみはがされるのだということも、きちんと書いている。
金のことは、ほんとに地獄が見える。うちは兄が博打にはまったから、骨身にしみてわかるわ。彼が首くくってないのはえらいけど、家族でも友だちでも人間関係も、ぼろぼろになるもん。そういうことを、きれいごとなしに、本当のことをさばさばと言ってくれているのはとても気持ちがいい。

本、すぐに読めてしまった。ノスタルジーかきたてられた。たぶん、そういう目的の本じゃないんだけど。

匂いが同じ、と思ったのは、15年前にフィリピンのボントックにいったとき。地方都市というよりももっと田舎で、たぶんなんにもないような町。自分が生まれたころの宇和島と、おんなじ匂いだ、と思った。どこがどうおんなじなのかと言えないけど、たぶん全然違うんだけど、暮らしの貧しさ素朴さの気配が似ていたのかもなあ。生まれたころの空気を取り戻したいような衝動に駆られて、狭い町を歩きまわったんだった。

というようなことを、あれこれ思い出してしまった。
こんなの、聴いたら。