ドリーム・シティ

こないだ、旗当番の日に(登校時のバス停までのつきそい)4年生のMちゃんが言った。
「ねえ、りくくんのおかあさん、どうして、あんなおそろしい森のなかに住んでるの?」
おそろしい森……。
おそろしい森のなかに住んでるのは、悪い魔女と相場がきまっているが。
「こわくて、夜あの道通れないからひきかえしたよ。どうして、もっといいところに住まないの」
もっといいところは、お家の値段もいいのです。住めません。
「あの森は、たぬきや鹿やイノシシが出る。だから、りくが言うこときかないときに、鹿やイノシシが迎えに来てるよっていうと、森にやられるのはいやだから、言うこときく。だから森があったほうがいいのよ。」
というと、
「そうかあ」と納得している。
でもさ、おそろしい森って、あんたの家から200メートルくらいしか離れてないじゃん。似たようなもんでしょうよ。

午後、3時半を過ぎると、笛の音が聞こえてくる。
ひゃらーりひゃらりーこひゃりーこひゃられーろ
笛吹き童子の人形劇がなつかしいけど、そうではなくて、ただのホイッスルの音。
見回りパトロールのおじいさんと道で別れたあとの子どもが、さびしさをまぎらわすためと、熊よけのために、ランドセルにつけているホイッスル吹きながら帰ってくるんだった。

笛を吹かずに帰ってくることもあって、パトロールのおじいさんが家の前まで送ってくれたり、上級生が送ってくれたりするときは、笛の音がしない。
何日か前は、6年生の班長が送ってくれた。
「りくくんと、ドリーム・シティの話をしながら帰ってきました」と報告してくれる。
お礼にお菓子をもって帰ってもらったが、ドリーム・シティって、なんだ?

「ここがドリーム・シティだよ。ぼくのうちがそうなんだ」
と子どもは言った。
なんでも、団地の坂道のはじまりから、公園をすぎて、角の大きな犬がいる家あたりまでが「どこどこ町」で、そこから上は「ドリーム・シティ」なのだそうだ。それで、どこどこ町に住んでる同級生のTくんと、ときどき電車ごっこをして(いろんな停留所で止まったり車庫で休んだりして)帰るらしい。

そういうことで、おそろしい森の、ドリーム・シティに住んでますが、朝、外に出ると向かいのおそろしい森の紅葉が素晴らしくて、毎朝、驚く。昨日も見たのに、やっぱり今日も驚いた。朝靄のなかからあらわれてくる赤や黄色。