「曠野」

「曠野」 李陸史

はるかな日に
天が初めてひらかれ
どこかで鶏の声が聴こえたろう

すべて山なみが
海を恋いしたって馳けるときも
この地ばかりは侵し得なかったろう

絶えることないとしつきを
こまやかな季節が咲いてはうつろい
大河の流れが初めて道をひらいた

いま雪ふりしきり
梅の香ひとりほのかに匂いたつから
わたしはここに貧しいうたの種子を播かねば

ふたたび長い星霜ののちに
白馬に乗っておとずれる超人がいるはずだから
この曠野で声をかぎりにうたわせよう

         伊吹郷訳
(死後、遺稿として発表された詩)


李陸史(イ・ユクサ 1904年5月18日~1944年1月16日)は、日帝時代の韓国の抗日詩人。抗日運動のため捕えられ、北京で獄死させられる。本名は李源三、ペンネームの李陸史(イ・ユクサ)は最初に逮捕されたときの囚人番号264(イ・ユク・サ)に由来する。



子どもが生まれたとき、晩秋の曇り空だったけれど、しきりにこの詩を思い出した。この子は私の子どものようだけれど、ほんとうは「天がはじめてひらかれ」た、はるかな場所からやってきたのだと思えた。
ずっと以前、フィリピンのゴミ山で、ゴミ拾う子どもたちを見ていたときにも、そのように思った。この子どもたちは、目の前のゴミに結びついている存在でなく、何かもっとはるかなものに結びついているだろう。

はるかな人たちを傷つけるようなことを、国はしてはいけない。教育の場の民族差別なんて、どんな理由があったってしてはいけない。そうでなくったって、はるかな人たち、子どもたち、それぞれの宿命にどれだけ苦しみ傷ついてゆかなければならないかわからないのに。



金曜日、ちびさんはクッキーつくって(私につくらせて)、土曜日、音楽教室のみんなにあげた。今日の午前中は地域の子ども会の歓送迎会でお菓子をもらい、帰りに畑で、水菜とふきのとう摘んで帰る。
ああ、春。