後ろの正面

  かごめかごめ鬼の子いつまでうずくまる後ろの正面風ばかりなり

という短歌をむかし、書いたことがあるが。
後ろにくるものは苦手である。見えないものの認識に問題があるらしいんだが、後ろは見えない、後ろにくると消えるのである。
そこに人間がいても、見えないから風の気配か人間の気配か、私はもうわかんないのだ。意識がおよばなくなる。
後ろの正面がだれかなんてわかるはずがない。風か、そうでなければ幽霊だ。

自閉症の本読んでいると、こたつに入ると足が消えたと感じるとか、いろいろそのような感覚の問題が書かれているが、私の場合、背後は消える。

むかし「おまえは俺を幽霊を見るように見るんだな」と男に言われたことがあったが、まあ憎まれてもいたが、そう、あの男は必ず後ろからあらわれるんだった。
こわいのだ。後ろからくるもの。
前にきて話せ。あの男はいつだって背後にいた。大人ぶって見守っているつもりだったのかもしれないが。
私がどんなにこわかったか、絶対わかんないだろう。

さて、ちびさん、最近わたしの背中にくる。ふざけて背中にくることもあるが、叱られると思うと必ず背中にくる。おんぶならまだいいのだ。重さがあるから。そうでなくて、背後にたたれるともうだめ。
背中に行ってしまうと、さっきまで私のちびさんであった子が、風にかわって消えてしまったみたいで、私はこわい。
「ばか。背中にくるな」と、ときどき叫んでいる。
たのむから。風になるな、幽霊になるな。