「久しぶりだと思ってね」

朝、雪。
午後も、はらはら降るなか、放課後の子どもを学校の門でつかまえて、療育に診察に行く。名前を呼ばれるまでの待ち時間で宿題はすんだ。

さて、診察室にはいった子ども、担当の女医さんに、言った。
「しばらく来てなかったし、久しぶりだと思ってね」
………。

子どもが先生とお話したいというので連れてきましたって言ったら、やさしい先生なので、とってもよろこんでくれて、学校の話などきいてくれて、勉強が楽しい、と答える子どもに、そうでしょう、そうでしょう、3年生になったら社会も理科もあるし、これからもっと楽しくなりますよって。
「でもいやなこともちょっとある」といじめられる話もする。
そういうときはどうしますか。
「母さんと父さんに言って、先生にも言います」
それでいいですよ。自分のなかにためないで、すぐに言いましょう。

夏にきたときは、発電所の話をしていたんだな、そういえば。カルテみて、その後、発電のほうはどうですかってきかれた子ども、
「発電はすすんでいません。いまは地図がおもしろいです」
って、話し出したらとまりません。昭和4年の地図の話も。

それから医者さんが、将来の夢は、って聞いてくれたもんだから、
「市長です」って、これがまた話し出したらとまりませんね。
森林の開発はどんなふうにするかとか、雇用と住宅の関係とか、
港に外国航路の船が来れるようにするとか、遊園地をつくるとか、宇宙開発の研究機関をつくるとか、妄想がとまらないんだけども、
医者さんに、市長さんお願いがあるんですが、小児科医が少なくて困ってるんですけど、増えるような工夫をしてください、女の人が子どもを育てながら働ける環境もつくってくださいって言われて、
「はい、わかりました」とか言っている。
(でも家に帰ってからきいてみたら、「なんだっけ」って、忘れてるし。医者さんは一票入れるって言ってくれてたけど、私は入れん。)

家で、ふだんしゃべってるようなことだけど、また違う場所できくと、なんかもうおかしいので、親ふたり、声を出さずに笑い転げた。医者さんは、カルテ書く暇がない。
話してすっきりしたくなったらいつでも来て下さい、って言ってもらって、医者さんと子どもの話は終わり。

大きくなりましたね。成長しましたね。多少いやなことがあっても、それも自分の楽しい世界を育てるエネルギーになってるようですよ。
家やここで、見せている姿と、学校で見せている姿とはまた違うと思います。学校では「小学2年生のぼく」モードにきりかえてやっていると思います。学校や友だちのなかでしか、わかっていかないこともあるから、ひとつひとつ経験です。いじめられたりすることがあれば、その都度すみやかに対処しながら、やっていきましょう。高学年になれば、みんな力をつけてくるから、波長のあう友だちも出てくるでしょう。
勉強が好きだから勉強しましょう。地理も歴史も好きそうですね。現代史は中学高校ではほとんどやらないから、いまやっておくといいですよ。
ピアノも好きでがんばれるんだから、つづけましょう。
自分がそこで息抜きができる、楽しめる、ストレスから解放される、というような、何か別の世界を自分でつくれるといいですね。いまは、街づくりをすることで、彼なりにバランスをとっていると思います。

というようなことを、医者さんと話している間に、子ども、街の鳥瞰図と、道路の絵と、山脈と川と海の地図と、3枚かいていた。カルテにはさみこまれると思います。

まわりの子どもとの噛み合わなさや、自分がアスペルガー症候群であることを、これからどう理解していくか、ということについて。
本2冊、紹介してもらいました。

☆「自閉症アスペルガー症候群「自分のこと」のおしえ方」
(ヒューマンケアブックス) 吉田 友子 ¥ 1,575

☆「あたし研究 -自閉症スペクトラム~小道モコの場合」
小道モコ ¥1,800 (クリエイツかもがわ)

「あたし研究」はすでに持っていますが、これは私的にはツボだった。
よくぞ書いてくれたっていう本ですねえ、って医者さんが言う。共感。もう一冊のほう、帰ってから注文した。
でも考えてみれば、本は読むけど、読んですっきりしたら、何が書いてあったかは忘れる。ソーシャルスキルなんとかという療育の本も、私は本棚につっこんだまま忘れてたけど、かわいい挿絵がいっぱいだし、漢字もむずかしくないし、子ども、これはぼくの本、と思ったらしく、いつのまにか自分の本棚に並べてる。
たぶん、読書する力さえなんとか身につけば、自分で療育してってくれるんではないか。と、怠けものの母さんは考える。

ということで、寝る前に「ムーミン」読んでやる。面白い。



ところで。
私はついに、ケータイをもたされることになった。
待ち合わせの時間をすれ違ったり、私が外出先からなかなか電話をかけないで、居所がわからなかったり、ということが相次いで、パパがとうとうぶち切れた。キッズケータイという奴をもたされることになりました。子ども用の、登録したところとしか通信できないというやつ。なんと、防犯ブザーつき。
なので、行く先々で、他人のケータイを借りるという迷惑は、もうかけないですむかと。
でも使い方がわかるまでは、まだすこしかかりそうだ。
やれやれ。