冬がきた


 「犯罪人のうちにあって感じられていないもの、それは犯罪である。無辜の人のうちにあって感じられていないもの、それは自分が無実であるということである。」 シモーヌ・ヴェイユ著作集Ⅲ(春秋社)

   冬がきた。子どもにインフルエンザの予防接種を受けさせに行く。寒くなってきて、小児科医院はにぎやかだ。あっちで泣いたりこっちで遊んだり。針を刺される一瞬、びくっとしただけで、子どもは泣きもしない。注射で泣かない子なのである。なのになぜ、爪切りや歯磨きで、あんなに大粒の涙をぽろぽろ流して、ギャアギャア泣くのか、ふしぎだ。

 おとなしい子、と言われていたが、実際、おとなしい子なのだが、最近は、かんしゃくも、なかなかすごくなってきた。気に入らないことがあると手にもっているもの何でも投げつける。それで、おもちゃが動かなくなったり音が鳴らなくなったりするのだが、それをどうにかしてくれと泣かれても困る。
 でもたいていは、親が自分を正しく扱っていないことへの怒りなのだ。きちんと相手してもらえないとき、自分に向けられる筋合いのない苛立ちを向けられたとき。
 子どもに向ける自分の声に苛立ちが響いているな、と思った次の瞬間には、子どもが奇声をあげて、何かを投げつけていたりする。きみのかんしゃくは、正しいなあ、と思う。

 ここんとこ、毎朝のように、子どもに頬を叩かれて起こされている。