机がきた。ふたつも。ベビーダンスもきた。
幼馴染みの女の子が、息子ふたり、それぞれ進学就職して家を出たので、机をいらないかという。捨てるには惜しいほど、いい品物らしい。
運送のトラック代一万五千円は、申し訳ないのでこちらで払うことにして、届きました。すごいうれしい。

机とタンス並べたら、なんかなんか、ふつうの子ども部屋っぽい。ふつうの家族のおうちみたいよ。たしかに捨てるに惜しい机だわ。ひとつは十万円はしてる。もうひとつも絶対安くない。
ひとつの机は東大を受験した男の子が(落ちて別の大学行ったけど)勉強した机。もうひとつは、霞が関の中央省庁に入省した男の子の机。
とりあえず、ひとつはちびさんに使わせて、ひとつは二階にもってあがる。この二階にもってあがるのが、大変だったあ。

幼稚園から帰ったちびさん、机に向かってすわって第一声が、
「ここにパソコンおくのよ」。
おきませんっ!
去年きみはパソコンを壊してしまったからだめだよ。(それもフォルダー名を勝手に書き換えて、もとが何だったかわからなくした上でゴミ箱に放り込むという、3歳児のいたずらとは思えない壊しかた!)
それでパパが、「きみはまだまだ勉強が足りないから、パソコンはあげられません」というと、ちびさん、納得するのが、なんかすごいよな。

パソコンはあきらめたが、ちびさん、しずかに興奮していて、机の下にもぐったり、引き出しに小さいブッブーさんたち、並べたりしていた。おもちゃのお城ができた感じだ。片づけてくださいね。でないと布団が敷けませんからねっ。

ふと気づく。この家、これで机四つになった。家族は三人。ひとつはパパのだけど物置になってるから、これで一人ひとつずつ机がある。
さて、この家の家具事情なんだが…。
台所の大きいテーブルは壊れてるけど使える。300円だったらしい。椅子は380円。台所は、あとはふつうに冷蔵庫と食器棚。
その他の家具は、まずパソコン台が三つある。三つともパパが使う。(ノートパソコンも壊れたり壊れてなかったりするのが三つほど。一つは私が使う。)
プリンターも三つぐらいある。中古で千円というのもある。
机ほどの大きさの業務用のプリンターもある。貰ったものだが、これは私がとても重宝している。
机ほどの大きさのスピーカーもある。貰ったものらしい。それより小さいスピーカーなら、数組ある。たぶん片手では足りないほど。
テレビは二台。二台とも貰ったもの。金がなくて捨てられないでいるのがもう一台。ステレオの類、ビデオデッキ類は、私はいっさい使えないので、何があるのかよくわからない。四つの部屋全部に、簡単だったり複雑だったりするステレオ装置とエアコンがある。いつのまにかパパがとりつけている。
壊れているけど使えないわけではないパパのタンス。もらったベビーダンスは、壊れてない。すごいうれしい。
それから本棚十二個。これで、壁という壁はふさがれる。

そろそろ限界になってきた。
女友だちが来たときに、この家には鏡がない、といった。洗面所にないことはないが、それしかない。姿見も鏡台もないと驚かれたが、私にはタンスもない。押入れの一角を使っている。学生のころ、押入れに段ボールを積み上げて使っていたころから基本的に変わってない。
ベビーダンスみたら、もうひとつまともなタンスが欲しくなったが、もう、壁がない。

それにしても立派な机。私が子どものころに使っていたのは、父が兄のために廃材でこしらえた机。中学になってからは、知り合いからもらった古い机。白いペンキが塗ってあるのがまだらに剝げていた。

ちびさん、たった4歳半で、こんなに立派な机をふたつも引き寄せてしまった。なんか、私なんかとは引力の度あいが違う。

夜、疲れたので回転寿司に行く。帰り、近くの川で蛍見る。
ほのかにうちひかりてゆくもをかし、程度にいた。
帰ってみると、家のすぐそばのゴミ捨て場のところ(森の奥に沢があるらしい)にも蛍いた。二匹ほど。
で、一匹つかまえて、ちびさんに見せる。それから飛んでったのだが、それを見てちびさん、「ママがほたるを、キャッチ&リリースしたのよ」と言う。
キャッチ&リリース? 捕まえて放す、たしかにそのとおりだが、どこでそんな言葉おぼえたの。
ギロロタママが、おさかなをキャッチ&リリースしてたのよ」
ああ、なるほど。

 掌のなかの蛍ほのかな温みもつ